short story

□陣風ミニマム
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 置いてきぼりをくらったかのように、急に静まりかえった家の中。郁と(てつ)の両親はとっくの昔に仕事に出ているし、残りの人間が2人とも学生ならば、登校するために家を出れば家内は静けさだけが侵食する。

 それにもとっくに慣れた。

 違うことといえば、今日は珍しく徹が郁よりも先に家を出たことだ。常ならば徹は新聞を少しくらい眺めているのに、それすらなかった。

「何かあんのか・・・?」

 そう自分以外は誰もいない部屋の中で郁がごちる。もちろん誰の応答もない。

 徹に何か朝急ぐ用事があったなら、徹は前日にはその旨を家事の殆どを任されている郁に伝えていたはず。それがないのならば、徹が先に出た理由は何だろうか・・・?

「馬鹿馬鹿しい、母親じゃあるまいし。そんなこと俺が気にすることじゃねぇし」

 そう自分に言い聞かせるようにして、エプロンを外そうと背中に手を回した。が、それと同時に瞳の端で捕らえた映像に身体が固まることとなる。時計の針が指すのは、午前8時半を過ぎたところ。

「げっ!!遅刻・・・」

 郁たちの通う学校では、教室に8時40分までに到着していなければ遅刻決定となる。とりあえず、1秒でも早く家を出なければ。

 そう働かない頭をフル回転させれば、郁は取りかけのエプロンを放り投げ、玄関へと急いだ。夕食の準備はまだ中途半端ではあったが、これでは帰って来てからやるしかない。


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