short story
□陣風ミニマム
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「はぁ、はぁ・・・」
どうにか校門まで到着し、郁はそこに手を預けるようにして息を整える。走るのは得意なほうだが、遅刻を免れるための全力疾走したならば、さすがにキツイ。
それに走ったため体温が上がってるのだろう。ひんやりと冷たい温度を持つ校門が些か気持ちよかった。
「おはよう、郁」
そう若干低めののんびりとした声が、郁にかけられた。幼馴染の裕介だ。男にしては不釣り合いであろう長い髪が、逆によく似合う容姿の持ち主。
「ゆ、裕介・・・」
「何急いでんの?特訓?」
呆れるようなのんびり思考。だがこんな思考、遅刻目前ではアウトだ。
「何って・・・、そっちこそ何のんびりしてんだよ。早く教室いかねぇと遅刻・・・」
「まだ15分だけど?」
「は?」
僅かに整った息で郁が吐き出すようにして言った。が、それに裕介は意外ともいえる言葉を返したのだ。自然と疑問符が頭の上に浮き出てきた。
「ほら、まだ余裕で間に合うよ」
そう裕介は自分の腕時計を郁に見せる。それは確かに8時15分を、間に合うことを示してくれていた。
「やられた・・・・・ね?」
そうあんぐりと口をあける郁に、裕介はやれやれというように首を振るう。犯人はわかりきっている・・・徹だ。恐らく家を出る寸前に時計の針を一刻ほど進めていたのだろう。
ここで郁はようやく徹が少し早目に家を出た理由に気がついた。時計を早めたのを、郁に感づかれないためだ。それに徹はどうせまだ学校には来ていない。どこかに寄り道でもして、少し余裕のできた時間を楽しんでいるのだろう。
それがまた、郁には腹立たしい限りだ。
「あのヤロ―――っ」
そう大声での絶叫がまだ人が疎らな校門で響く。それに耳を塞ぐ裕介と、立ち止まって笑う上級生が目に映った。少しばかり眉を顰めた裕介は、幼馴染なだけあり状況もなにもかも把握したのだろう。
「徹さんてさ、相変わらず郁いじるの好きだよね」
「いじられてるこっちは楽しくもなんともねぇよっ!!」
そうのんびりとわかりきった結論を述べてくる裕介に、郁は怒鳴り返した。こんなのただの八つ当たりだ。
「郁、ここ学校。一緒にいる俺が恥ずかしいんだけど・・・?」
相変わらずマイペースな速度で紡ぐ裕介の言葉に郁ははっとした。いつの間にやら増えたギャラリー。そこに知り合いの顔があったわけではないが、みんなの視線が郁に集中しているのだ。クスクスと堪え切れない笑みを零す者。迷惑そうに眉を顰める者。
十人十色を示すように、野次馬は皆思い思いの表情を浮かべている。
「ちくしょ―――っ!!」
その視線から逃げるようにして郁は昇降口まで走って行った。ここで1番迷惑を被ったのは、郁の横にいた裕介かもしれないが・・・。