short story
□陣風ミニマム
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徹は常と表しても問題がないほど、郁をからかう。郁にしてみれば、こんな兄の行為は迷惑な話であり、悩みの種だ。
やめろと言って収まるものでもないし、こちらから仕掛ければ逆に返り討ちに遭わされてしまう。どうしたものか・・・その郁の愚痴をいつも聞かされるのが裕介だ。
「それでも、尊敬はしているんだろ?徹さんのこと」
徐々に人数が増えてくる、始業前の教室。まるで音楽でも聞いているかのように、感情すら読みとれない顔つきで裕介が零した。だが、掌に顔を預けたその様は、呆れているのが手に取れる。
「そ、そりゃ・・・否定はしねぇけど・・・・・」
「しないんだ」
裕介の質問に口籠りながら郁は返した。確かに否定は・・・しない。郁が尊敬の意を兄・徹に持っているのは事実だ。
「だってさ・・・、バスケ上手いし頭いいし。確かに俺のこと毎回のようにからかってくるけど」
そうぶつぶつと言葉を零す。本当に、からかったりとかしてこなければ尊敬はもっと大きくなるのに、このからかい癖が郁にとっては、徹の【玉に瑕】に思えてならない。
「あとは背が高いから?確か173って前に聞いたけど」
最近ではない記憶を引っ張りだすようにして裕介が答えるのを、郁が睨みつけた。
「どうせ俺はチビだって言いてぇんだろ?この年になってもまだ151しかねぇよっ!!」
ドンッと机に拳を落とすような音が響けば、それにクラス中が注目する。
「150はあったんだ、オメデトウ」
「オメデトウじゃねぇ!!」
興奮する郁に対して、相変わらず落着きを払う裕介。だがこれも、クラスの人間にしてみればいつものことだ。誰も気に留めようともしなかった。