STRENGTH
□第四幕 隠れた表情・隠した理由
2ページ/10ページ
「ねぇ、北斗ぉ・・・どうしたの?」
「え?」
くぃと洋服を引っ張られ、北斗は足許に目をやる。そこには無垢なままの瞳の飛鳥が、不思議そうに北斗の顔を覗き込んでいた。
「何か考え事?」
逆ににっこりと愛らしい笑みで問うてくる桃。こちらも北斗によく懐いているのだろう・・・ぎゅっと北斗の脚にしがみついて、離れそうにない。
「大丈夫だ・・・ありがとな、2人とも」
そっと瞳を細め、北斗は飛鳥と桃の頭を順に撫ぜた。これは、いつも見るような変わらない風景。だが、その北斗の表情だけがどこか曇っていた。そして、その様子に飛鳥も桃も気付く様子はない。
「北斗北斗・・・、俺さ剣術やりたい。ねぇ、教えて」
「飛鳥がもっとおっきくなったらな。そうしたら、いくらでも教えてやるよ」
「絶対だからな。そうしたら俺、北斗より絶対強くなってやるんだから」
「そりゃ楽しみだ」
北斗と同じく剣術をやりたいと述べる飛鳥。これは、北斗も以前飛鳥本人の口から聞いたことのある言葉だ。
だが、北斗らと同じように稽古場に入るにはまだまだ幼すぎるし、とうていついていけないだろう。北斗にしてみても、飛鳥が次の誕生日を迎えたら自己の稽古の合間に慣れさせる一環として教えてやるつもりでいた。
「じゃあ桃は、おっきくなったら北斗様のお嫁さんになる」
「あ、ずりぃ。俺がなるんだ」
「・・・・・・・・」
そして不意に投げかけられた幼子2人の告白。それには北斗も返す言葉が見つからない。嬉しいと言えばいいのか、子供相手にどこまで本気にしていいのやら。少し照れたようにして、口許を手で覆う。
「飛鳥・・・男は嫁にはなれねぇだろ」
「え――――・・・」
どちらにどう返事をするわけでもなく、そう笑いをこらえて言ってやるしかなかった。この純粋な素直さが、愛おしい。
「北斗様、桃がおっきくなったらお嫁さんにしてね」
「考えとくよ」
心は変わるものだ・・・桃が将来誰を好きになるかなんてわからない。そのまま北斗かもしれないし、同じ年頃に成長している飛鳥かもしれない。もしかしたら、それ以外の他の誰かかもしれない。それに、北斗は仮にも国王の息子だ。長男でないからといって、自分の一任だけで婚約者は選べない。
だから、全てを真に受けるのではなく、考えておくという保留にすることが、互いに傷つかない安全な対策だったのかもしれない。
「桃ばっかずりぃよ」
「だって桃、北斗様のこと大好きだもん」
「俺だって」
まるで、子供が玩具の取り合いでもしているような会話。これに介入などできそうにない。ましてや、北斗はその対象になっている本人だ。