short story

□陣風ミニマム
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 黒澤郁は現在中学1年生。どこにでもいるような、普通の健康男児。

  だが、両親は共働きで家を常と言っていいほど空けていた。そのため、家事全般は郁の仕事。今朝もいつものように朝食を作っていた。制服の上からのエプロン姿は主夫さながら。

  郁がふとかけられた時計に目をやると、それは朝の7時をとっくに過ぎていることを知らせてくれる。この時刻は2つ違いの兄である(てつ)を起こす時間だ。

  郁は朝食のために動かしてうた手をとめて、徹の部屋へと向かう。そしていつもしているように声をかけた。

「兄貴・・・、そろそろ起きて・・・・・」

  そう眠っていた者が不快にならないように、控え目な声のかけ方。一方の起こされる側である徹は布団に未だ潜り込んだまま、「ヤダ」との言葉を返し、郁がいる側とは反対の方角に身体を向ける。

「は?」

  これに納得いかないのは、無論起こしに来た郁だ。

「ヤダじゃね――っ、さっさと起きやがれ。飯できてんだよ!!」

  ズカズカと徹の部屋に入り込めば、叫ぶようにして声を荒げた。が、これに動じないのが徹だ。

「・・・じゃあ・・・・・」

  と、落ち着きを払った声で、徹は自分を揺する郁の手を掴み、引き寄せる。

「姫がキスしたら起きる・・・」

「・・・え・・・・・」

  そう、徹はいきなりのことに躊躇している郁の手の甲に口付けを落とした。だが、郁とてそこまで甘いわけでもない。

「朝から何寝ぼけてんだ、このクソ兄貴っ!!」

  ドカッという、稀によく目にする効果音はその音を終えると同時に徹の顔に痣を刻み込む。

「〜〜〜〜〜いって・・・」

  その部位を抑え込むようにして、やっとこさ徹はのっそりとしたペースで布団から身体を起こした。目の前に腕を組んで怒の字を露わにして郁が立っているのはいうまでもない。

「たっく・・・ちょっとは優しく起こしてくれよ」

「じゃあその寝起きの悪さをどうにかしろってんだ」

  起こし方にケチをつけた徹に、郁は冷たく言い返す。この徹の寝起きと手クセの悪さは幾度となく郁を悩ませていた。今朝のは郁にしてみれば、まだマシなほうだ。

  だいいち、あげたらきりがないのだ。

  キス程度の接触で済めば、まだ怒鳴るとか殴るとかで済ますことができる。酷いときは押し倒されたりした時だ。←

  いくら徹が寝起きとはいえ、力の差がある。郁はそれで勝つことが未だ敵わないのだから。


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