STRENGTH
□第四幕 隠れた表情・隠した理由
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3日経っても、安土らの消息は相変わらずだった。こちらからどんなに呼びかけても応答はない。また、あちらからの呼びかけもなかったのだ。
日向も事の判断を急かされたが、決断は待機とだけ。日向とて、白夜を含む彼の森への同行者が心配でないわけがない。ただ、機会を窺うのだと北斗には伝えた。
北斗もそれが国王の判断ならば、従わざるを得ない。それに、彼の許可なく森に入るという馬鹿な真似をするわけにもなかった。仮にも、国王の息子であるのだから。ただ、少しばかり乱れた心情ではと、早朝に行っていた稽古を自主的なものへと変えていた。
こんな状態では、誰かを指南するのは不可能・・・それは北斗の師である周の判断でもあった。
「・・・・・・・・」
無心に行われる素振り。それは全く音をなさず、寧ろ完全に黙して行われた。静まり返った部屋の中、太刀だけが空を切る。
それに近づく、小さな2つの影。
「北斗ぉ、遊んでぇ」
ガバッとのしかかるように背中に加えられた重み。北斗に懐いている飛鳥という少年だった。一緒に来たのだろう・・・桃という飛鳥と同年代の少女もいる。
北斗程の剣客であれば、とられることのない背中。だが今の北斗には考え事が、気掛かりが強すぎて、そちらに欠けてしまっていた。そして、北斗は不意打ちに関しては反応がやけに早過ぎる。
「な・・・」
何だとも紡ぐ前に、その対象が何かを確かめるより前に身体が動いてしまう。気が付けば、太刀は既に軌道を描き始め、それは飛鳥にまっすぐと向いていたのだ。
すかさず目をつむり、顔を両手で覆う桃。「きゃあ」という小さな悲鳴が北斗の耳を掠めたが、軌道を描き始めた刃を止める術は焦りに呑まれている北斗にはなかった。
もう遅い・・・。
「北斗っ!!」
「・・・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・・・」
太刀が振り落とされきる前に、その刃はせき止められた。北斗の持つ太刀と飛鳥の間に入り込んだ金色のカヌ。これは月城のものだ。
「飛鳥を殺す気? お前らしくないよ」
「い、いや・・・悪い。助かった。飛鳥も、大丈夫か?」
上がった心拍数を戻すようにして北斗が問う。飛鳥もびっくりした顔はしていたものの、月城の介入のおかげか怪我はしていなかった。大丈夫だと小さく頷く飛鳥。それに、当事者である北斗が1番安堵する。
「飛鳥、お前も悪いんだよ。素振りとかしている時はむやみに近付くなって、北斗に言われていたはずだろ」
「うん、ごめんなさい・・・」
今にも泣き出しそうな顔で謝る飛鳥。悪気があったわけではない。ただ、子供心に北斗と遊びたかっただけだったのだと容易に手に取れる。しゅんと、どこか落ち込んだ顔がやけに寂しそうだった。いくら悪いことをしたとはいえ、こんなに反省しきっているし、飛鳥だってまだ子供だ。北斗も月城も、それを強く責めることはしなかった。