short story
□アイカタチ
2ページ/13ページ
―5年後―――。
泣き出しそうだった女の子は17歳となっていた。名前は早川はるひ。地元の高校に進学し、現在は2年生。事故が起こったのははるひが小学校6年生の時で、ちょうど卒業前であった。
そして、はるひに名前を呼ばれていた男の子・和也は一命をとりとめたものの、中学入学と同時に父親の仕事の関係で転校していた。だから現在は、和也ははるひの傍にはいない。
はるひにとって、そんな過ぎ去った過去など、早く忘れてしまいたいと思うも思い出してしまうのだから仕方がない。
否・・・忘れられないと記したほうが正しいだろう。
覚えているのが咎めだとでもいうように、和也のことを思い起こすたびに、その鮮明たる記憶にはるひは苛まれていたのだ。
これで思い出すのは一体何回目であろうか・・・。
「・・・るひ、はるひっ」
幾度か名前を呼ばれ、はるひはようやくそのことに気がついた。同級生の市橋真菜が呼んでいたのだ。
「ご、ごめん・・・真菜。何?」
はるひは、そう慌てて繕うように言葉を紡ぐ。それに呆れたように真菜は溜息をついた。
普段から何かを考えているはるひには言葉をかけても上の空なのは知っていたが、今はまだ始業前だ。いくら教室にいるからとはいえ、朝からこうでは困る。
「珍しくはないけど、朝から何ぼーっとしてんの?」
そう腰に手を当てるようにして、真菜は言葉を紡ぐ。どうやら怒っている様子はないらしい。
「考え事・・・・・」
そう遠慮混じりにはるひは答える。が、この考え事はたいていいつも一緒の、【和也のこと】ばかりだった。
5年前の和也は、はるひを庇ってあんな事故に遭ったのだ。あの日、一緒にいなければ・・・一緒に帰らなければ・・・そんな後悔ばかりいつも考える。
だが、それを真菜は知らない。真菜ははるひが高校に進学してからの友人だからだ。たとえ親友だと思える相手でも、自分が犯したとしか思えない【罪】については、はるひは晒すことができなかった。自分が庇われたことで、和也の身に何が降りかかったのかを・・・。
「ねぇねぇ、それよりさ・・・次の土曜日空いてる?」
「うん、空いてるよ」
そう何か自身に言えないことでもあるのかと察した真菜は、話を切り上げ始めにするつもりであった話題を持ってくる。これはもう、傍から見れば仲の良い女子の会話だ。こうやって、触れないでいてくれる真菜の行為に、はるひもほっと胸を撫で下ろす。
本当に日常的にどこででも見られる女子同士の休み時間の会話風景。もちろん、それは珍しいと思うものはいないだろう。ただその様子を廊下から眺めているようにしている男子がいた。
「水野、こっちだ」
「あ、はい」
教員に呼ばれ、彼はその背中を追うようにしてその場から離れた。瞳にはるひの姿を幾度か映しながら。