short story

□天使と堕天使と悪魔
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 そう不慮とも言える落下に遭ってしまったエル。

 しかしエル自身は、まだ状況を飲み込めていないのか、辺りを見渡すばかり。自分が落ちた先が魔界だという認識が、まずなかった。

「それにしても・・・どこだ・・・ここ・・・・・?」

 そう・・・見渡す限り、その周囲は天界と見間違うくらい酷似していたのだ。日の差し込むこの場所は、まるで木漏れ日のような温かさすら感じる。ただ本能的に、漂う空気が違う・・・それだけがわかったことだった。

(天界じゃないのはわかる・・・。でもまさか、魔界じゃないよな・・・・・)


 天界に似ているけれど、天界ではない・・・。

 だったらここは・・・?

 今自分がいるのは、魔界・・・?


 だがそれは、エルにとって考えたくはないことだった。昔のように友好関係があった時とは違い、今は神々に限らず天使と悪魔の両者は対立している。天使が魔界に落ちたら最後、どうなるかなど想像もしたくない。

 いや・・・どうなるかはエル自身、知っていた。

 天使が魔界に落ち、そこに長居しすぎると2度と天界へは戻れなくなる。髪も翼も黒く染まり、堕天使へとなってしまうのだ。

「とりあえず、早く戻ら・・・つぅっ」

 そう立ち上がって、翼を広げ羽ばたこうとすると、急にそれが強く痛んだ。落ちた時の衝撃で、翼が傷ついてしまっていたのだ。

 天使であるためには、天界に戻るためには、魔界だという可能性のあるこの場所に、長居などできない。事態は急速にせまってくる。

 助けを呼ぼうにも、魔界だとしたらやってくるのは悪魔だけ。それに魔界に落ちたとしたら、天界の住人はそれに関与しようとはしない。天使は悉く悪魔と顔を合わせることだけは避けているのだ。

 それが例え、仲間が犠牲になるかもしれないとしても・・・。

 もし彼ら悪魔に天使が翼をもがれたら、それこそ天界には一生戻れないだろう。そんなことが起こりえたら、魔界を彷徨うことになってしまう可能性が十分に高いのだ。



 おとぎ話だとも思えるこの話・・・エルが知らぬはずがない。

 だからこそこんな危険と隣り合わせな場所、早く立ち去りたいと思えた。もちろん、ここが魔界だということはエルには明確ではないのだが。


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