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□大切なのは…A
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「すっかり暗くなっちゃったな…」

マカは白銀の絨毯に惜しげもなく足跡を残しながら学校から帰宅した。
椿に自分の気持ちを聞いてもらったためか、表情はすっきりとしている。
はぁーっと吐く息はとても白くてきらきらしていた。

「ただいまー。」

マカは帰宅すると、先に帰っていたソウルが「おぅ…」と一言告げた。
素気ない対応だが、これが彼らの日常のやり取りである。
しかし、今日のマカは些細なことでも気にかかった。
今日はソウルが食事当番であったため、また夕食の準備に取り掛かった。

「(私の帰りが遅いのに、ソウルってば気にならないのかなぁ??)」

マカはあまりにも自然な対応に、本当に自分は相手にされていないのか不安になった。
椿やブラック☆スターに励まされ、元気を取り戻すことができたにもかかわらず、いざ本人を目の前にすると、どうしようもなく気持ちだけが先走ってしまう。
マカはソウルに気づかれないように、小さくため息をついた。
そして、マカの瞳にはジワジワと涙が滲んできたのだった。

「…んで……」

あまりにも消え入りそうな声に、料理に熱中しているソウルは全く気付く気配もない。
マカは、拳に力を入れてフルフルと体を小刻みに震わせた。

「…何で!?…ソウルは私のことなんかどうでもいいわけ!!?」

「ぅわッ…!!?」

突然の叫び声に驚いたソウルは、持っていたオタマを床に落とした。

「な…なんだよイキナリ…」

現状がよく飲み込めないソウルは、オタマを取りながらマカを見てまたオタマを落とした。

「な…何で泣いてんだよ…?」

マカは瞳いっぱいに溜めた涙をこらえきれず、頬に涙のラインを作っていた。

「うるさい!!全部お前が悪いんだ!!!」

「はぁ!?何言ってんだ??お前…」

ソウルは訳もわからないまま、涙を流しているマカをなだめようとマカの傍に移動する。
そして、マカの顔を覗きながら指で涙を拭った。

「何か嫌なことでもあったのか?…それとも、俺、お前の嫌がることしちまったか…?」

ソウルは悲しそうな表情でマカを見つめた。

「……私たち、付き合って…3か月経つよね…??」

「あ??…まぁ、そんくらい経つな。それがどうしたんだ?」

言っている意味がわからないソウルは、困惑しながらマカに返答する。
すると、マカはヒステリーでも起こしたようにまた叫んだ。

「何でソウルは私に何もしてこないの!!?私たち付き合ってるんじゃないの!?私ってそんなに魅力ない!!?私のこと嫌いになった!!?……もう…ソウルがわかんないよぉ……。男なんて信じられない!!みんな死んじゃえッ!!!」

マカはその場に泣き崩れた。
そんなマカにソウルは一瞬呆気にとられたが、また気持ちを入れ替え泣き崩れるマカの頭を優しくなでた。

「バカかお前は…。クールな男がそう簡単に好きな女を嫌いになるわけねーだろ?」

「…本…当??」

涙と鼻水でグシャグシャになったマカの顔を見て、思わず笑いそうになるソウルであったが、そこは我慢した。

「…ああ!!本当だ!!何でマカを嫌いにならなくちゃいけねーんだ!?理由がねぇ!!」

「…じゃあ……何で私に何もしてくれないの…??」

「…そ、それは……///」

ソウルは威勢のいいことを言ったまではよかったが、マカの問いに頬を赤らめながら言葉に詰まる。
照れ隠しにティッシュをマカに渡してから、マカから視線を逸らしてゆっくりと冷静に話し始めた。

「…それは。お前を…マカを抱いたら……マカを壊してしまいそうで……怖かった。そんな細い体に俺の欲望をぶつけたら、お前に嫌われるんじゃないかって……怖かったんだ……。」

マカを大切に思い過ぎるがゆえの行動であった。
ソウルは優しい表情でマカを見つめた。

「お前が嫌いだから抱かないんじゃないんだ…。本当に愛しているからこそ抱けなかったんだ…。……ごめんな。自分勝手な思いでマカを傷つけちまって…。」

ソウルはマカを強く抱き締めた。
すっぽりと腕の中に納まる小さな体がとても愛おしく感じる。
そして、しばらくマカの温もりを肌で感じた後、ソウルはそっと唇を重ねた。
それは、とても優しくて、マカはとろけてしまいそうな感覚に陥った。

「…俺の気持ち、まだ疑うか?」

ソウルはマカから腕の分だけ間を離し、エメラルドグリーンの綺麗な瞳をじっと見つめて真剣な面持ちで問いかけた。
すると、マカはフルフルと首を横に振った。
もう、涙の跡など跡形もなく消え去っている。

「そっか…。マカ、ずっと俺の傍にいてくれ…。」

ソウルはまたマカを腕の中へ抱き寄せた。
今度は強い力ではなく、包み込むように優しく……とても優しくマカを抱き締める。
それに応えるようにマカもソウルの背中に手を回し一言だけ伝えた。

「うん…///」



外はシンシンと降る雪が積もり始めている。
しかし、マカとソウルの周りは温かく穏やかな空気に包まれているのだった――…
















「さて…飯にするか!せっかく作った料理が冷めちまう。」

しばらくして、ソウルはマカの肩をポンと叩いて夕飯の準備に取り掛かろうとした。

「ぅわッ!!?」

マカはソウルの胸倉を掴み、自分の方へ引き寄せた。
そして、悪戯好きの少年のような笑みを浮かべ、愛するソウルへ言葉を贈るのだった。

「お前の貞操…いただくよ!!」




end.
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