『秘密』短編集
□心の中の秘密
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私の頭から貴方の事が離れません。
気が付くといつのまにか貴方の事ばかり・・・。
薪 剛警視正――――
さらりと頬を滑らかに滑る細い髪。
女と見間違うほどに長い睫毛がその大きな瞳は閉じられ影を射す。
分厚く形の良い唇に吸い寄せられるように私の唇が貴方のソレに軽く触れる。
一瞬微かにだが睫毛が振るえた気がした。
それは気のせいかもしれないが、だがあの人の事・・・感覚だけは有ったのかもしれない。
だが、それでも私は止めることもせず軽く触れるだけのキスを何度も繰り返し、次第に段々とエスカレートしていく。
薄く開いた唇の間に舌を無理矢理捻じ込み、軽く薪さんの舌を絡め取り吸い上げる。
その度に、くちゅりと粘膜質な音が耳に響く。
「ふッ・・ン・・・。」
微かに薪さんの声が聞こえた。
見ると眉間に皺を寄せ、苦しかったのか寝返りをする。
その振動でかわ分からないが、薪さんの唇の端から誰のモノともつかない唾液が顎に伝う。
ソレを見た瞬間私の心臓がドクンと一際大きく跳ねる。
何度もキスを繰り返していた為に唇は艶やかさが増し、それでいてゾッとするくらい妖艶に見えた。
「薪さん・・・薪さん薪さん!」
私は狂ったように何度も愛しい人の名を紡ぐ。
だが、それでも起きる事は無かった。
貴方は本当にズルイ人だ。
どうして此処まで私の心を惑わすのですか?
どうして此処まで私を狂わせるのですか?
貴方に惹かれその心を奪われたものは何人も居た筈だ。
そして、私もその一人。
あの男も貴方に惹かれ心を奪われ、そして狂った愛情を貴方に捧げた。
『貝沼 清孝』
私もいずれあいつのように狂い愛しそして堕ちて行くのだろうか?
私は今日も貴方に秘密の愛情を注ぐ。
誰も知らない。
貴方も―――
私だけの秘密。
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