顔面コンプ超絶無関心彼女!!

□噂の鉄仮面
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或る侍女の噂。

「チハヤ様って、本当に素晴らしいお人よね!男性と思っちゃうくらいでしたわ!」
「はい!この前、重いものを運んで足を滑らした私を支えて下さって、荷物を半分以上持って運んでくださいました!!」
「もう一々が様になっていて、女性であるにも関わらずに惚れてしまいそうです!」
「男性だったら間違いなくモテるわよね」






或る武官の噂。

「チハヤ様の彫刻刀投げって本当に命中率が高いですよね。あれ、弓術の一環なのでしょうか?」
「この前、シャルルカン様とヤムライハ様がチハヤ様の彫刻刀投げの餌食になっていたぞ……」
「剣か魔法……どちらが上かケンカの領域を超えた言い合いになっていたが、場所が場所だったらしく……」
「チハヤ様の工房前で言い合いしていたら、怒りの炎にに満ち溢れ、背景に鬼神を呼び出したチハヤ様が彫刻刀を持ってはお二方に華麗な彫刻刀投げをしたそうだな」
「怖いけど凄いよな〜。立場がどうであれ彫刻刀投げをするんだから」
「確か王様も被害に遭っていらっしゃるようですよ。その彫刻刀投げに」
「王様まで彫刻刀投げすんのかよ……」


日々噂されているこの王宮の指名手配犯ことチハヤ。彼女は仮面を常時装備し、蒼黒のベールにコートを着た、無口の不気味な外見の持つ女性。
全く声を発さず、素顔を見せない防御率のバカ高い彼女。王様が『チハヤの素顔を見た者には昇格昇給』ということを言い、王宮中にはそんな張り紙が大量に張られていて毎日素顔見たさに罠を仕掛けている。

だが、彼女はそんな欲望まみれの罠なんか引っ掛からずに最早チハヤVSシンドリア王国王宮というバトルが繰り広げられているが、今日の今日まで王宮の負けなのだ。
ただ、外見や指名手配犯とは裏腹に王宮中の者たちの評判は上々。今日はそんな彼らの評判を聞きに行く。




初めまして、私はシンドリア王国の王宮で、ドラコーン将軍の元で修行している武官のアルベールと言います。えぇ、目立たない度100%の天然モブなのは百も承知です。ですがご清聴お願いします。
今、王宮で指名手配犯の仮面とベールを常時装備した、全身を蒼黒の服で隠したチハヤ様というお方がいるのはもうご存知ですよね皆さん。
実は彼女、シンドリア1の芸術家という肩書きを持つだけではないのです。
皆様の想像を越える物凄く凄い人物でした……。


ある日、私たち武官が弓矢を持ったドラコーン将軍の元で弓術を学ぼうとしているとき、ドラコーン将軍がチハヤ様を見つけました。


「チハヤ殿ではないか」
『お疲れさまです、ドラコーン将軍殿。武官の鍛練、精が出ますね』

珍しい。あの指名手配犯のチハヤ様が工房から出て散歩など……。普段のチハヤ様は仕事柄、彫刻や絵画などの作業で工房に籠りっきりになるのが多い。たまに森に出かけるらしいですが、私たち一兵卒はその姿をあまり見たことがありません。しかし、この炎天下で分厚い蒼黒のベールとコートがあまりにも不釣り合い過ぎます。そしてその仮面が不気味ですよ。何気にスケッチブックに書く文字が美しいですね。
そんなことを私たち武官は全員思い、毎日チハヤ様の仮面を外すことに精を出していますが全戦全敗です。


「仕事は捗っているか?」
『ちょっと煮詰まりすぎて新しいアイディアが思い浮かばないので、気晴らしに散歩を……』
「うむ、あまり同じところにいるとそうなると言うらしいな」
『何かこう、的のど真ん中を射るような直感的なアイディアが欲しくて外に出た次第です』


ドラコーン将軍とチハヤ様が楽しげに談笑している。珍しい…、珍しすぎる。修行ではあの厳しいドラコーン将軍がドラコーン将軍夫人以外の人物であんなに楽しそうに話してるの、初めて見た気がする。いや、あの静寂を好むチハヤ様もチハヤ様だが。


「あんのサボり野郎!!今度はどこ行った!?」

そして王宮から聞こえるジャーファル様の怒鳴り声が鍛練場にまで響く。嗚呼、また我が王は仕事を抜け出したのですね。そんなサボり癖のある王について、ドラコーン将軍が呆れた溜め息をついて。


「全くあの者は……。これではジャーファル殿の仕事も増えるでないか」
『将軍、手に持ってるのは弓矢ですか?』
「おぉ、今日は武官たちに弓術を教えようと思ってな。本物の弓と矢だ。チハヤ殿がよくやる彫刻刀投げを見て思ったのだ。前々から命中率が凄いと思っているが、過去に弓術か何かを?」

えぇ、確かにチハヤ様の彫刻刀投げって本当に素晴らしい技量と命中率です。正に百発百中という言葉がピッタリです。主にシャルルカン様とピスティ様と王様に対する命中率が凄すぎるのです。

『いえいえ、弓術なんて大それたものはやっておりませんよ』
「では、試しにやってみるか?」
『え、よろしいのですか?』
「芸術以外に別のをやってみると、チハヤ殿に新しいアイディアが浮かぶかも知れんからな」
『ありがとうございます、将軍』

おお、あのチハヤ様が弓術を。私たち武官は感嘆の声をあげる。今日は本当に珍しい日だ。
チハヤ様がドラコーン将軍に弓術の基本である構えなどを教えてもらい、弓矢を構える。構えから美しいです。これで仮面がなかったら凄い集中力で凛とした表情なのでしょう。見てみたいなぁ。


『これ、撃っても?』
「人のない所でな。本物の鏃だから特に気を付けてくれ」

その瞬間でした……。


ヒュッ、ドスッ!!

矢を放った風切り音と何かに命中した音と共に、チハヤ様は本物の矢を武官の頭を通り越して、鍛練場の周りにある樹木の幹に放つと、何故かそこには頭に木の枝をつけて樹木に擬態していたこの国の国王ことシンドバッド王がいて、王のアホ毛のど真ん中に当ててしまっていたのです。
王はわなわな震えていました……。そして私たち武官も、震えてました。ドラコーン将軍に至っては口をあんぐりと開けて。

「う、うむ……。あやつがいたとよく分かったな」
『何か自然とそっちいきました』
「いやいやいやいや!チハヤ!!普通、王に向かって本物の矢を当てるか!?」


王様はずんずんと大股でチハヤ様に近づきました。その格好、どうにかしてくれませんかね?木の枝を頭につけている格好がどうにも笑えてならないのです。

『何か王様の変なニオイがしたもので完全に断ち切ってやろうかと思いまして』
「その考え方危ないからね!?ねっ!?てゆーか弓矢構えないでくれよ!!それ本物だろ!?」
「見つけましたよシン!!今日という今日は縛り付けて溜まりに溜まったツケを払って頂きますよ!!」

そんなとき、鍛練場に目の下に濃いクマが出来ているジャーファル様が現れました。

「げっ!見つかった!!」
「チハヤ、見事な命中率でした!!お陰で早くに見つけることが出来ました、ありがとうございます!」


そして逃げる王様を捕獲する縄を持ってジャーファル様は目を爛々と輝かせて王様を追いかけました。
チハヤ様、貴女の弓術……。凄すぎです。ドラコーン将軍も驚愕しておりました……。凄すぎて八人将なくしてチハヤ様の仮面、外せる自信が無くなりましたよ。





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