いろいろパラレル1

□彼と彼女とそして。
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「熱が出たのが、今日でよかったよ」
 アルフォンスは、ははと笑ったが、エドワードは笑える心境じゃなかった。
「だって、ニーナもお泊り保育でいないし、オレももちろん居ないし、ひとりでいるなんて、心細いだろ…?」
「でも、兄さんには、自分の担任する子どもたちに楽しい思い出を作るっていう使命があるでしょ。ニーナももちろん。僕のことは心配しないでよ。お粥だって自分で作れるし、寝てれば大丈夫」
「…でも」
「もう、大丈夫だって。ほら、時間がないよ。ニーナ連れて行ってらっしゃい」
「うん…何かあったら連絡して。オレはたぶん忙しいから、連絡できないかもしれないし…」
「うん。わかったよ。兄さんは大変だろうけど、ニーナには楽しんできてって伝えて」
「うん…」
 後ろ髪を引かれる思いで、エドワードはそっと寝室の扉をしめた。


 今日は、年長だけが保育園で泊まってすごす、お泊り保育の日。親を離れて友達と寝るという子どもにとって、どきどきで楽しみな一日だ。それのお世話をするということは、とても大変だが、エドワードも担任としてここは楽しませてやりたいと、思う。これは、一生の思い出となるから。
 昼過ぎの登園となり、夕飯は、自分たちでカレーを作る。夜は肝試しをして、遊戯室でみんなで眠り、朝早くに宝探しゲーム。朝食のあとに遊んでいると親が迎えに来るので、帰宅ということになる。

 エドワードはもちろん、中心となって子どもたちを促していかなければならず、次はこれ、次はこれ、と進めていくうちに、あっという間に夜になった。一息つく暇もなく、つぎつぎと進めていくので、子どもたちが寝静まって、やっと時計を確認することができた。夜は、他の先生たちと交代で不寝番をする。
 時計は午後十時をさしている。
「ちょっと、トイレ行ってきます」
 他の保育士にその場を頼み、エドワードは更衣室に向かった。
 携帯電話を置いていて、もしかして連絡があったのかも、と思いあわてて確認する。
 着信やメールはないようで、ほっとする。だが、もう寝てるかもしれないとおもいつつ、アルフォンスの携帯電話に連絡をした。
 すぐに、アルフォンスが出たので、まだ眠っていなかったのかもしれない。
「アル?大丈夫か?」
『うん、だいじょうぶだよ。心配しないで。今おなかがすいて、お粥作ろうとしてたとこ』
「そっか…」
『時間もないでしょう?仕事にもどって』
「うん、じゃあお休み」
『おやすみ。兄さんは、明日の昼までがんばってね』
「うん」
 声も、元気がありそうだ。そうおもい、エドワードは、ほっと安堵の息をはいて、通信を切り、そのまま更衣室のカバンにしまいこんだ。
「よかった…」
 そのまま、遊戯室にいくと、子どもたちは全員眠っている。
少し離れた場所で、小さな電灯をつけて、他の三人の女性保育士が恋の話に花を咲かせていた。
「エド先生も、食べる?プリン」
 差し入れなのだろう、お菓子やコーヒーが置いてあった。
「え、あ、ありがとうございます」
 プリンとコーヒーを受け取り、三人の女性保育士は、再び恋の話へ。年頃の女性というのは、この手の話ししかないのか、と思う。興味のないエドワードは、気もそぞろだ。
「このまえ、彼氏が熱だしてね」
 その言葉で、ふとエドワードは耳を澄ます。
「うん、それで?」
「看病に行こうとして、でも仕事が遅番でさあ、しかも延長保育が長引いちゃって。あわててカレシの家にいったのよ。そしたらさ、女がいたのよー!」
「「「ええっ!?」」」
 他の二人の女性保育士と一緒に、エドワードも声をあげてしまって、思わず口をふさぎつつ、赤面してしまう。
 そして、四人は、思わず声が大きかったことに、はっと眠っている子どもたちのほうをみたが、誰一人起きていなかった。
「それで!?」
「もう、頭にきちゃって、別れたわよ!」
「えー、浮気してたってこと?」
「どうかわからないけど、でも違う女がいたのはたしかね。自分が弱っているときに、家に入るのを許すなんて、相当な仲じゃない?私はそう思って、もうきっぱり別れたわ」
「そうよねぇ。男の意見として、どう?エド先生」
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