いろいろパラレル2

□スウィートビター・チョコレート。
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そうか、もうバレンタインという季節なのか…。去年は受験で市販のヤツ渡しただけだったし、今年はちょっとガンバッてみようかなぁ…。
 そんな思いで歩いていると、ふとケーキ屋の張り紙がみえた。
『ケーキ教室。今年のバレンタインは、手作りケーキにしませんか?』
 うお、これだ、これ!

 エドワードは、目を輝かせてケーキ屋の扉を開いたのだった。
「いらっしゃいませ」
 金髪の柔らかい笑みを浮かべた男が、エドワードを迎え入れた。
「あの、表の張り紙見たんですけど…」
「あ、はい!兄さん、兄さん」
 男が奥にいるらしき人を呼ぶと、同じ髪色で長身の男が出てきた。柔らかい笑みを浮かべた男とちがって、目は少々鋭い。
「客か?」
「兄さん、ケーキ教室の生徒さんだって」
「ほう。よろしく。俺の名はラッセル・トリンガム」
「僕は、フレッチャー・トリンガム。ここのケーキは兄さんが作ってるんだ」
 よくみると、フレッチャーという男は、自分より年下のように見える。
 そのフレッチャーがケーキ屋の隅にあるテーブルに促し、すわるように言った。
「教室は、七時からになります。バレンタイン特別コースは、週に一回で、全部で三回。最後の回はバレンタイン当日か前日に日を決められるんだけど、どうしますか」
「当日で」
「はい。じゃあ、この申込用紙を書いてください」
 エドワードが紙に書くと、フレッチャーが
「エドワードさんですね」
 と笑顔で言う。
「エドワード?女なのに?」
 ラッセルにそういわれて、
「うるせーよっ」
 と初対面に関わらず、そういってしまうと、ラッセルはふっと笑った。
「ま、お似合いだな」
「っ!おまえな〜」
「ちょっと、兄さん。お客さんなんだから…。えっと、何曜日にしますか?」
 バイトのない日にするとして…
「水曜日で」
「じゃあ、明日と来週と当日でいいですね」
「はい」
「じゃあ、おまちしております」
 フレッチャーのにこやかな笑顔に、つられてエドワードも微笑んだ。
「あ、あのさ。俺、ホントに料理とかできないけど…大丈夫かな」
「大丈夫ですよ。バレンタインにはおいしいケーキ作りましょう」
 にこ、っと優しく微笑まれ、(あ、ちょっとアルの小さいときに似てる…)と思うエドワードだった。


 教室一日目。
「うわあっ!」
 五人ほどいる生徒の中で、一人だけハデに小麦粉をぶちまけていたのは、エドワードだった。用意したエプロンも真っ白だ。
「これじゃあ、先が思いやられるな」
 先生であるラッセルに呆れられ、他の生徒にくすくすと笑われてしまって、エドワードは真っ赤になった。
「大丈夫ですよ。僕も、よくやりました」
 布巾で机を拭きながら、フレッチャーに励まされエドワードは小さくごめん、と呟く。
「気にしないで。そっと入れれば大丈夫」
 こんなところもアルフォンスに似ている、なんて思いながらエドワードは頷いた。
 
 やがてできたケーキ。他の四人の女性は、キレイで、ラッセルが見本とした形とほぼ同じで、習う必要ないんじゃないか、とエドワードがおもうほどだった。ただ、料理やお菓子作りに手馴れてるだけなのかもしれないが。
「今日は四角いケーキを作ったつもりだったが…」
 エドワードの出来たケーキは何故か、丸いのだ。
「うっ…」
 研究の実験ではうまくいくのに、どうしてこういうことが苦手なんだろ。
エドワードは何も言い返せない。
「かわいい顔してても、こんなお菓子作ってちゃ、彼氏に幻滅されるわよね」
 ふと頭上に降ってきた言葉に、エドワードは顔をあげた。栗色の巻き髪で、きつめの化粧をした女だ。
 見たことあるな、と思った。だけど名前までわからない。
「…そんなことで幻滅するような男と付き合ってねぇよ」
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