Sasuke ver..

8月下旬―――…
夏休みの終わりが近付いて来た、日中。
今日も外は真っ青な青空に燦々とした太陽の日射しが眩しく、気温は30度を上回る。
一戸建ての二階にある幼馴染みの部屋で
俺は今年も、毎年恒例の『夏期休暇の課題』を睨む金色を眺めていた。


「………。」


静止したように、ペンを持って固まった儘の幼馴染み。
つい3日ほど前から、何もかもが白紙だった学習帳を進めているのだけれど。
先程からまるで課題は進んでいない。
俺が今教えたばかりの公式は、どこへ抜けていったのだろう?
無意識に何度目か分からない溜息が洩れる。


「…おい。」

「何だってばよ?」

「さっきから進んでないじゃねぇか。」


自分でも分かる、少し呆れたような口調で告げた言葉に、幼馴染みが唇を尖らせる。
昔からまるで変わらない癖を見て、また溜息が洩れた。


「お前なぁ…中3の夏休みに、どうして基礎問題も解けないんだ?英語ばっかり出来ても、数学が出来ないと何所の入試も落ちるぞ?」

「っ、そんな言い方…!」


学習帳を睨んでいた視線が、俺に変わる。
部屋の真ん中に出していたテーブルに、ダンッ!と、幼馴染みが思い切り手を撞いた音が静かな部屋に響いた。


「俺は、これでも一生懸命勉強してるんだってば!お前みたいに頭が良くて運動も出来て、おまけに格好良い奴には分かんないだろうけど!!」


最後、要らなくないか?


「それはどうも。」

「褒めてない!バカ鎖介ッ!!」


思わず鼻で笑ってしまった俺に、幼馴染みは毒吐くとその儘立ち上がった。
床に胡座を掻いて座っている俺を上から見下して、床に散らかっている参考書やプリントを片付け始める。

少し、言い過ぎただろうか?
珍しくそれ以上は何も言わずに俺に背中を向けた幼馴染みを見て、俺も罰が悪くなって来た。


「おい、成斗?」


一人ガサガサと片付けを進めていた幼馴染みの手が、ピタリと止まった―――…かと思うと。
突然俺が勉強机の上に筒状に丸めておいていた課題ポスターを、勢い良く広げた。


「なっ!?バカ見るな!ウスラトンカチッ!!」


幼馴染みが勉強を進める間、暇だからついでに描いた俺の最後の課題。
慌てて言葉と共に立ち上がるも遅く、幼馴染みは吹き出して肩を震わせ、俺に向けてそのポスターを広げて見せた。
勢いに押されて固まった俺は、もう二度と見たくない自分が描いたポスターを直視する事になり―――…


「ックク!鎖介ェ…これ何の絵だってばよ?」


必死に笑いを堪える幼馴染み。
俺の羞恥は、爆発寸前まで上がり、課題ポスターから視線を反らす。


「…と……だよ。」

「ん、んー?何だって?ぜんっぜん!聞こえねーッてば!!」


態とらしく声を上げる幼馴染みは、もうとっくに笑っていた。


「…と、と…ッ!『トマトとスイカ』だよ!ウスラトンカチッ!!」


顔が外よりも暑くなる。


「ぶっはーッ!マジウケる!!『トマトとスイカ』!?これが中学3年生の絵柄かってばよ!?どう見ても幼稚園児が描いた『ビーチボールのちょっとグロい版』だってばね!!」

「っ!テメェ!!ウスラトンカチ!俺の芸術をバカにすんなッ!!」

「これの何所が芸術だってばよ!?なんでこのスイカとトマトと呼ばれる球状の物体に手足が生えてるんだってば!?この夏一番の神爆ネタ!!しかも左右で指の数違うし!!初めてまともに鎖介の絵見たけど、これは隠したくもなるってばね!そうだ!母ちゃんにも見せてあげるってば!!」

「やめろォッ!この大バカ者!!俺の作品は一回の閲覧に300円なんだぞ!?触るな!傷が付く!!」

「やっすーいっ!!」


ポスターを取り替えそうと必死になる俺を、バスケで鍛えた身軽さで幼馴染みがかわす。
散々人のポスターを持ってバカにする幼馴染みと部屋の中で追い掛け回っている内に、ドジな幼馴染みはゴミ箱に躓いてベッドに倒れた。


「追い詰めたぜ…成斗ぉ…。」


久々の鬼ごっこに上がった呼吸を整えながら、俺はベッドに手を衝き、遠い位置にあるポスターに手を伸ばした。
自慢じゃないが、俺は毎年美術以外はオールA尽くしの5評価。
美術だけは、アヒル以外取った事はない。
ピカソもビックリしそうな自分の芸術作品を奪い返して達観する俺を、下で同じように息の上がった幼馴染みが見つめていた。


「さ、鎖介…近いって。」

「は?」


気不味そうに瞳を泳がせる幼馴染み。
なんだ…?
幼馴染みの荒れた吐息が僅かに顔に掛かり、俺の黒髪は白い頬に当たっている。
ドアップで捉える大きな蒼の瞳には、真っ直ぐに俺が映っていて。
俺は漸くお互いの顔の距離の近さに気付き、跳び退く様に幼馴染みから放れた。


「わ、悪ぃ…。」

「うん…。」


走った所為だけじゃない、胸の鼓動から気を反らす為に、幼馴染みから顔を背けた。
こう言う時に何て言えばいいのかなんて、分からない餓鬼な俺。
気不味い空気だけが、暫く部屋に流れる。


「成斗ー?おやつにシャーベット作ったから、鎖介君と降りてらっしゃーい?」

「っうわぁ!?母ちゃん!?」


そんな空気を破ったのは、幼馴染みの母親だった。
一階から聞こえて来た幼馴染みの母親の声で、お互い驚いて空気が元に戻る。
また別の意味でバクバクと高鳴る鼓動を落ち着かせようと、胸に手を当てる俺を放って幼馴染みは扉の前に走って、ドアを開けた。


「…あ、あのさぁ?鎖介?」

「ん?何だ?」


何故か立ち止まって金髪を指で掻く幼馴染み。
さっきの事を謝りたいのか?
言葉を待つ俺に、今度は振り向いた、かと思うと―――…


「ありがとう、こんな俺なのに、何時も勉強見てくれて!」


それだけ言って階段を降りて行った。
まるで予想もしなかった言葉を聞いて、一人取り残されてしまう。
別にコイツの課題を見てやる事は、今に始まった事じゃない。
小学生の頃、近所に幼馴染みが引っ越して来てからだから、もう7年近くは続いてるのに…。
多分、今の俺は自分の描いたトマトとスイカよりあほな顔をしている、と思う。


「…ったく、今更だし。ウスラトンカチ。」


この胸の擽ったさに、一つ。
笑みを溢して、幼馴染みに着いて俺は階段を降りた。

中学最後の夏休み。




―end――…





 

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(*´∪`人*)vv
拍手返事はRESにて。

紅葉手帳:紅葉みぃる拝

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来年も、また課題見てやるか



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