□所有物は作り物の物語と共に終わりを迎えました
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結局は皆、どんなに整った顔立ちだろうが良い性格であろうが本能には勝てない訳でエゴイスト、又の名を利己主義者、表面上は良くても所詮内心ではボロクソで薬に溺れてもう差し出される手も無い大莫迦者と高価な調度品に溢れ欲が叶う大金持ちさえ根本的は一緒なのだ、そして当然それは自分も同じで社会の利害なんて知ったこっちゃない人間なのだ、だから自分の欲しいモノは不自由なく手に入れてきた訳だし不満も無かった、愛だって今の世の中欲しいと思えば簡単に手に入る物で、やはり金なんだと実感させられる、でも最近一番欲しかったモノを手に入れた手段は言葉と行為であり今までの自分とはある意味真逆のコトをして手に入れたのだった、そして次に欲しくなったものはどうやって手に入れようか、そう現在進行形で考えている、今は暇で適当に借りてきたそれなりに人気のある恋愛ものの映画を二人で見ていて、実際の所、こういう類いの映画は苦手な自分にとって30分も経てばやはり飽きる訳で、しかし見るのをやめて別の事をする訳にもいかず仕方がないので見ているフリをしていて先程までの考えを巡り合わせていたと云う訳だ
金、言葉、行為、それぞれどれも大切だが欲しいモノはこれだけでは手に入りそうにない、映画を見る前に淹れていたコーヒーを飲みながら聞こえないよう、そっと溜め息をつく、苦く酸っぱい味が口内を染めてゆく、あまり美味しいとは言えなかった
横目で隣の恋人を見れば膝に頬杖をついていながらも、見入っているのかその瞳は真剣だった、いつもなら下らないちょっかいなんかを出すのだが、今出せば恐らく機嫌が一気に降下するだろうからやめておく
これだけ集中していれば多少観察していても気付かないだろうと思い、頭から足の爪先にまで見通す
ボサボサとしたブロンドの髪にエメラルドグリーンの大きめの瞳、不健康なまでの白い肌ピンク色の薄い唇、グラスのような曲線を描いている首筋、少し力を入れ握れば折れるんじゃないかと云う位の細い手足に少し長めの爪
なんだか自分とは真逆な気がして寂しくなった
そして、ますます欲しくなった
そんな事を思っていると、場面は夜の営みにへと変わったらしく、頬を染め気まずそうにふと此方を見た、すぐに俯かれたのが残念だ
その顔が見たくて肩を押し、座っていたソファーへと押し倒すと軽く頭をぶつけたのかこっちを軽く睨んだ、未だに赤に染まった表情で睨まれても誘っているようにしか、煽るようにしか見えず抵抗される前に口付けた細い体がぴくんと跳ねて、思い切り腕に爪を立てられる、プツンと小さく肌が裂けて爪先で中を抉られた感覚が分かった
決してマゾでは無いけれどそれがちょっと嬉しくて(本人は果てしなく嫌がっているのだけれど)頬に額に首筋にへと口付けを落とせば更に力を入れられ抉られた所から手の甲にかけて紅い血が流れ落ちてゆく
顔は遂にトマトのように真っ赤になり、下唇を噛みしめ自分の子分なら一瞬で逃げ出す位の恐さで睨んでいる、でも自分からしたらやっぱりそそられるのだ、恐らく世間ではこういう事を変態と言うのであろう
手の甲にまで流れていた血は指先にまで来て、ソファーを汚した
紅く染まった指先を見ながら、ダイイングメッセージでも書けるんじゃないかと思ったりしながら恋人の暴言を聞き流す
もう映画どころでは無くなっているのだろう、一通り言い終えたかと思えばまた言いかけようとしていたので少々強引に両頬に手を添えもう一度、詮をするように口付けをした
もう抵抗する気力も無くなったのか諦めたのか、分からないが抵抗がなくなれば此方のもので湿った唇に紅を添えるように指先の血を塗る、白い肌と赤は酷く合っていて、満足気に笑みを見せればまた睨まれた
内心苦笑いも零しつつ、彼の指と自分のを絡めてゆく、爪先を見ればさっき腕を抉っていたのだろう指の爪は赤黒くなっていて、早くも乾燥した血が少量落ちていった、その指をぺろりと舐めると血なのにシロップのように甘く感じた
それと同時にエンドロールであろう曲が流れる
ちらりと見れば当たりのようでつらつらと女優やスタッフなんかの名前が流れていた
もうやめるとでも思ったのか、起き上がろうとしていたから思い切り片方の手で首を掴み、締めた
細い喉が跳ねて吐き損ねた酸素が途切れ途切れに咳き込むようにして出される
絡めていた指を離し、此方も首に添えると何が起きたのかと言う表情をしていて、目尻には薄く涙が溜まっている
力を込めれば簡単にポロリと涙が出て来て面白かった

あ、これなら
手に入るじゃないか、欲しいモノ

そう確信を持ち、渾身の力を入れ首が折れそうな程締めれば何かを言いかけようとしたのか、口を小さく開けたまま

死んでしまった

(所有物は作り物の物語と共に終わりを迎えました)

end

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