□渇れない泉と欠けた世界
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兄ちゃんが、起きないんだ
それは判りきっていた事、統一の際、一つの国に二人の擬人は要らないのだからどちらかが消える
それは皮肉にも、出来の良かった弟が残ることになり、兄である片方は意思など関係なく消え去り直に誰からも忘れられて南イタリアと云うその名称だけが紙面に載るだけ
冷たい風が頬を切るようにすり抜けて意識を覚醒させる手伝いをされた
目の前には眠ったようなその姿
形だけ残すなんて、神様も相当良い性格をしていると思う、涙も何も出ないのは判りきっていたから、予知やデジャヴじゃなく、なんと言えばいいのかは不明だがなんとなく、そう判っていたのだ
触れてしまえば硝子細工のように砕け散ってしまい、本当の消滅、消失と化すだろう
ペリドットの瞳は何も映しておらず、光の居場所を追いやったようだ
可愛い可愛い、甘えん坊の夢、兄を想っていたそれは苦々しくも焦げた其処だけを残してしまい、空振りと云うには哀しすぎる表現
さよならも何も、言えなかったのは当たり前なのに
生まれ変わりだなんて望んではいない、出来る事なら一度だけでも愛し合いたかった、一方的な感情は拒まれた訳でもなく、平行線のように真っ直ぐと続いている
幸薄だっただろうか、自分がしてやれた事は彼にとってどうだっただろうか、お節介だっただろうか、満足だっただろうか、足りなかっただろうか
永い思い出を巡って廻って、辿り着いた先は白
崩れ落ちた亜麻色は震えており、親を失った子のようなそれは不謹慎にも綺麗で、未完成なままの楽園は後に無色透明の神話となって、語り継がれる事もなく不幸にも消え去り、太陽に包まれた屍は無惨にも消え世界から忘却されて逝った

(渇れない泉と欠けた世界)

end

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