遙かなる時空の中で

□伝わる想い
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伝わる想い









――穏やかな朝。




いつもの様に、くせっけの激しい九郎の髪を弁慶がといでいる。




だが、今日はいつもとは少し違うらしく‥‥



「いてっ‥!弁慶、お前今日はやけに乱暴じゃないか‥?」



「おや、痛かったですか?そんな強くしたつもりは無いんですがね。痛かったのなら、すみません」



美しいずの弁慶の笑顔に、何か黒い物を感じる。



「‥弁慶、お前何かとてつもなく怒ってないか‥?」



今までの経験から、その弁慶の笑顔に何やら恐ろしい物を感じた九郎は、そう恐る恐る弁慶に尋ねると、



「え?嫌だなぁ、僕が怒ってるわけないじゃないですか。まぁ、昨日僕がもうこれ以上無理だと言ったのに、それを聞かないで僕を好き放題にした君には恨みを感じていますがね」



「べ‥弁慶‥‥」



それは、怒ってるんじゃないか‥と九郎が言おうとする暇を与えず、弁慶が言葉を続ける。



「いえいえ、怒っている訳じゃありませんよ。‥ただ、僕の意見も身体の調子も全く無視してくれたことに、ちょっと悲しくなっているだけですよ‥」



「‥弁慶‥」



そう告げる弁慶の顔は先ほどの黒い笑顔から、少し切な気な表情をしていた。



それを見た九郎は、ようやく自分の過ちに気付いた。



いくら源氏と平氏の戦いが終わり、平和な世が訪れたといっても、将軍だった自分には戦の様々な残務が残っている。



そのため最近仕事がずっと忙しく、愛しい恋人との夜はすっかりご無沙汰になってしまっていた。



そして、久しぶりに休みが取れた昨日。



何回か行為を行なった後弁慶は「これ以上は無理です」と告げていたのだが、久しぶりの愛しい人の熱にすっかり浮れていた九郎は、いつもならすぐに聞き入れる言葉を聞き逃してしまった。








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