遙かなる時空の中で
□初恋
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初恋
―――ザァァァァッ‥
「くそっ‥!」
降りしきる予想外の雨の中を、九郎が一人さ迷い走る。
すると、九郎の目に小さな洞窟が目に入った。
(よしっ‥丁度良い‥)
此処で雨宿りしよう。
そう思いながら、洞窟の中へと歩みを進めると、
「だ‥だれ‥!?」
奥の方から、突然人の声がしてくる。
その声に驚いた九郎が思わずその声のした方を見ると、そこに居たのは黒の外套を頭からすっぽり被った、少し脅えた顔をした一人の少年だった。
あまりの綺麗さに最初は女かとも思ったが、どうやら声色的に少年らしい。
「お‥俺は、怪しい者じゃないぞ!雨宿りに来ただけで‥!」
思わず見とれていたことに微かに赤くなりながらも、相手を安心させるよう、そう胸を張って言うと、
「なんだぁ‥君もそうだったんだ。ぼくもなんだ。ねっ、良かったらとなりに座らない?」
九郎の様子にすっかり警戒心を無くしたのか、そう少年が微笑みかけてくる。
「あっ‥ああ‥」
特に断る理由も無いので、誘われるがまま隣に腰をおろす。
「雨、止まないねぇ‥」
「そうだな‥」
止まない雨の中、二人の間に静かな時間が流れる。
「‥そういえば、お前春なのに何でそんなの着てるんだ?」
少年の着ている真っ黒な外套が気になった九郎が、何気なくそう少年に尋ねると、
「そ‥それは‥」
あまり触れられたくないことだったのか、少年の肩が小さく震える。
「あっ‥!す‥すまん、言いずらいことなら‥」
『言わなくて良いんだ』
そう告げようとするや否や、その少年が小さく口を開いた。