short story

□ひまわり
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--高杉!いいもの
    見せてやる!--









「ねぇ銀時、まだ?」
「あともう少し!」

…もう何度目かのもう少しを聞き、高杉はハァとため息をつく。



銀時は、どこから持ってきたのか分からない自転車の後ろに俺を乗せて、野原の続く山道を一生懸命に漕いでいた。



透き通った青空に、積雲が並ぶ。
どこからか、せわしなく鳴く蝉の声が聞こえた。



今日は8月10日。
俺の生まれた日。


何もいらないって言ってんのに、銀時は「いいもの見せてやる!」と言って俺の手を引き、2人で寺子屋を抜け出した。



真上に差しかかった太陽が、じりじりと俺達を照らす。
俺は額から滲み出た汗を拭いながら、ポツリと呟いた。
「…寺子屋に帰ったら、松陽先生に怒られるだろうな…」
「大丈夫!」
そん時は俺も一緒だから、と銀時は漕ぎながら振り返り、笑った。
銀時の額には、俺以上に汗が滲み出ていた。
「…漕ぐの、交代しようか?」
俺だけ楽な思いしているのには気が引けるので、俺は銀時にそう言った。


しかし銀時は「だーめ!この山道を、高杉を後ろに乗せて登りきるって決めたから!!」と言うと、また少しスピードを上げた。



そよそよと風が吹く。
かなり上の方まで来たのか…向こう側で、江戸の町が小さく見えた。

「きれい…」
ふいに出た言葉。
俺が呟くと、銀時は振り向き、「こっからの景色も最高なんだけどさ、今から行くとこも最高だから!!」と楽しそうに笑った。


俺は、自然と銀時の腰あたりに手を回し、一生懸命に山道を漕ぐその背中に顔をうずめた。



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