short story

□人
1ページ/3ページ


朝、ベッドから起きても
隣りに君の姿はない。





…今日も億劫な1日が始まる。
















**人**















異様に部屋が広く感じる。
いや、元々あまり広くはないアパートなのだが、君がいないというだけでこんなにも広く感じるものなのだろうか。



…いつかこの現状にも
慣れてしまう日が来るのだろう。




銀八は色を帯びない全ての物から目をそらすと、カップを1つ取り出し、コーヒーメーカーでコーヒーを作る。




その時、ふと昔の事が
頭の中に鮮明に蘇った。








朝が弱い君は、俺が起こさないとなかなか起きない。
俺はコーヒーを作ってから君を起こしに行く。


…毎日の日課だった。


「ほら晋助起きろ」
銀八は気持ち良さそうに寝息をたてる高杉をゆさゆさと揺さぶる。


高杉は「んー…」と言いながらも渋々起きた。
「おはよう晋助」
朝1番のお決まりの言葉。
まだ眠たいのか、高杉は焦点の合っていない目をこすりながら「おはよ…」と呟く。



出来立てのコーヒーを2つのカップに注ぎ、テレビの前へ座る高杉に持って行く。


…そう、
毎日の日課だった。




はっと我に返ったように現実へ引き戻される銀八。
気付けば無意識に付けていたテレビは、朝必ず高杉が見ていたニュース番組。
ニュース報道とはまた別の、最近の流行り物や番組がおすすめする食べ物やカフェなどを紹介していくコーナー。



静かな部屋に虚しく響くアナウンサーの声。



銀八はその場に座ると、頭の中に入ってこないその声を聞き続けた。








また報道番組に変わる。

カップの中身も底を尽きた。




銀八は国会がどうなどと喋り続けるテレビの電源を切ると、軽く身支度を整え、外へ出た。




流石に秋を通り過ぎたこの季節は少し肌寒い。
しかし家に居る事は出来なかった。


…あそこは思い出が
多すぎる。


銀八は部屋の鍵を閉めると、目的地も無く歩を進めた。










.

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ