short story

□ある昼下がりの日に
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気持ちの良い程の青空が広がる、初夏のある昼下がりの事。

その日はあまりにも天気が良くて、屋上でサボっていた高杉は瞼が重くなるのを感じた。

(タンク裏なら、銀八が来てもバレないよな)

ふとそんな事を思い、タンク裏まで移動した瞬間、安心したのかそのまま眠ってしまった。

…それが間違いだったんだ。




あれから、1時間くらい経った頃だろうか。
高杉の心地良い眠りを妨げたのは、少年の声だった。

「おにーさん。ちょっと起きて」

ゆさゆさと揺さぶられ、唸りにも近い声を上げて起きた高杉の目の前には、見たことの無い三つ編みの青年の姿が映った。

…しかし景色がおかしい。

屋上には屋上なのだが、今自分の目の前に広がるのは、その青年と綺麗な青空だった。
まだ完全に起きていない脳に、青年の静かな声が響く。

「おにーさん、早く起きないと…犯し殺しちゃうぞ」

その言葉で一瞬にして目が覚めた高杉は、今の自分の状況に気付く。
何故か自分の上に馬乗りしている青年の姿は、端から見れば押し倒しているように見える状況だった。

瞬間、すかさず拳を上げる。
しかし三つ編みの青年はそれを軽やかにかわし、ケラケラと笑いながら高杉の上から退く。

「冗談だっておにーさん。…いや、少し本気だったかな?」

だってあまりにもおにーさんの寝顔が綺麗でさ、と笑えない冗談を言う青年に、高杉は奥歯を噛み締める。

「お前、誰だよ」

明らかに銀魂高校の生徒では無い彼は、他校の生徒だろう。
なら他校の生徒が、銀魂高校に何の用だ。

噛みつくような目で見ていたら、三つ編みの青年は「そんなに怖い目で見ないでよ」とにこやかな笑顔と共に答えた。

「俺は神威。よろしくおにーさん」

その笑顔に何だか調子が狂う。
じゃあ次は俺の質問、と神威は呟くと、今度は先程と打って変わって不気味な笑みを浮かべ問う。

「おにーさんさぁ、"高杉晋助"って誰だか知ってる?」

途端高杉は呆気に取られる。
探してるんだよね、と言う神威は目の前にいる探し人の事に気付いていないのか。
深くため息をつくと、後ろにあったタンクに身体を預け答えた。

「俺に何か用?」

その瞬間、神威は初めて驚いた顔になる。
しかしすぐに元のにこやかな笑みに戻ると、高杉の隣りに腰を下ろした。


「何だ、おにーさんが高杉晋助だったの。うわぁイメージと違う」

どんなイメージだったんだ、と言ってやりたかったがそれは神威の言葉で遮られた。

「俺の高校さ、俺より強い奴がいないんだよね」

他人の話など興味は無いが、取り敢えず耳を傾けておく。

「毎日退屈で仕方なかった時にさ、噂を聞いたんだよネ。銀魂高校に強い奴がいるって言う噂」

「それが俺?」

「そ、」

だから逢いに来たんだ。銀魂高校で1番強いと言われる高杉晋助に…。

そこまで聞けば、神威が俺を探していた理由が十分分かった。

また喧嘩か、と思い空を見上げる。透き通る青に身体が吸い込まれていきそうだ。

だが神威は高杉の思いを察したのか、でも…、と小さく呟くと続けた。

「今日は別に君を殺りに来た訳じゃ無いんだ。ちょっとどんな奴なのか見に来ただけ」

その時、授業終了の鐘が鳴る。
神威は立ち上がると高杉の目線まで腰をかかげる。

「ま、今日はそんなわけで帰るよ。ちょっと君の事気に入ったし。でも次逢った時は容赦しないよ」

そう言い神威は高杉の耳元で低く囁く。

「次逢った時は、君の事ヤっちゃうかもネ」

瞬間、高杉は体温が上昇するのと同時に拳を作る。
それをいち早く察した神威は、またもケラケラと笑うと屋上から飛び降り見事に着地する。
しかしその行動に驚いた高杉は急いで鉄格子越しに下を覗いた。

もう辺りには誰もいなかった。

「くっそ…」

力が抜けたように床に腰を下ろし、空を見上げる。
顔が熱いのは、きっとこの暑さのせいだろうと言い聞かせた。











END

 

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