short story

□a bad dream
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目を開けたら、真っ暗な世界が続いていた。
暗すぎて、自分の姿さえも見えない。
いや、本当に目を開けているのか?もしかしたら閉じているのではないのだろうか。
そんな感覚も掴めないこの世界。

…ここは、どこ?

何も聞こえない無音の世界。
声を挙げてみても、何も聞こえない。
いや、本当に声を出したのか?

何も、見えない。
何も、聞こえない。
おれは、どこにいるの?
おれハ、ココニいるノ?
クライヨ、コワイヨ…。


…銀時。


無意識に呼んだ名前。
銀髪の、侍の名前。
何故だかその名前は、暗闇に吸い込まれるように辺りに響く。

銀時、銀時…!

立っているのかどうかも分からない身体で、暗闇の中を必死に走った。
走っているかどうかも分からない。
だけど走った。
君の名を呼びながら。

「銀時…銀時…」

段々と声になる。
無音の世界に君の名が響く。
暗いよ、怖いよ。
助けて、助けて…。

頬に生暖かい水が流れる。
それは止めどなく流れては、暗闇の中に吸い込まれていった。

何で泣いているのか自分でも分からない。
意識していないのに、勝手に溢れてくる涙。

怖いよ、助けてよ…。
暗いよ…、俺はどこにいるの?
涙が止まらないんだ。
助けて…助けて…。

「助けて、銀時…」

俺の声が辺りに響いた時だった。

…晋助。

しっかり聞こえた、懐かしいアイツの声。

晋助、晋助…

何度も俺の名を呼ぶ声。
その声は、この暗闇の中で道標のように俺を引き寄せる。
俺はまた走り出す。
光のようなその声を頼りに。

その時、暗闇が割れ、銀色の光が差し込む。
あまりの眩しさに目をくらませた。

「晋助!」

ハッと目を覚ます。
そこは光も音もちゃんとある世界で、目の前には銀髪の侍がいた。

「晋助どうしたの?うなされてたよ」

あぁ思い出した。
昨晩コイツの家を訪ねた俺は、そのまま寝てしまったのだった。

現実世界でも泣いていた俺の頬に、銀時はそっと指を這わす。

「…嫌な夢でも見たのか?」

答える間も無く、俺は堪らない気持ちで一杯になり、気付いたら銀時に抱きついていた。
銀時の存在を身近に感じるように、力強く抱き締める。
銀時は一瞬驚いたようだったが、すぐに俺の身体に腕を回すと同じように力強く抱き締めた。

「本当どうしたの。苦しいよ」

そう言いつつも全然苦しそうに見えない銀時。
俺はまた出そうになる涙をこらえ、囁く。

「苦しいぐらい、銀時を感じたい」

「嬉しいこと言ってくれるね」

銀時が力を緩めたのと同時に、俺も力を緩める。
銀時は俺の頬を、大きな手で優しく包み込んだ。
冷たくて、気持ち良い。

「何度も俺の名前呼んでたよ」

銀時は囁く。
俺は黙って頷いた。

「俺が呼んだ声、聞こえた?」

俺はまた頷き、静かに口を開いた。

「お前のおかげで、俺は戻ってこれた」

それからそっと、銀時の口唇に自分のを重ねる。

「ありがとう…」

そう言えば、銀時は微笑んだ。

「汗びっしょりだし、気持ち悪いでしょ?お風呂入ろうか」

俺は頷き立ち上がると、銀時も立ち上がる。
きっと一緒に入るという事なのだろうか。

「晋助」

名前を呼ばれると同時に抱き締められる。
今度は俺が驚いたが、すぐに背中に腕を回す。

「俺は、晋助が嫌だと言っても傍にいるから」

心地良く響く銀時の声。
何だか全てを見透かされているようで、とうとう俺の目からは涙が溢れ出した。

今、一番聞きたかった言葉。
独りぼっちになった俺が、一番不安だった事。

"ずっと傍にいて欲しい"

声にはならなかったが、銀時には通じたと思う。
その瞬間、銀時は軽々と俺を抱きかかえる。

「ぅわっ…!」

「それではこのまま、お風呂場へ直行いたしまーす」

銀時の一言一言で、俺の心は感情を現す。
嬉しくなったり悲しくなったり、安心したり不安になったり…。
今はもう、安心している。

「銀時、」

「ん?」

俺も、安心させてあげられるような言葉を…。

「愛してんぜ」

そう言えば銀時は、幸せそうに笑った。





END

 

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