short story
□restful
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日も短くなり始め、肌寒い風が吹き付けるようになってきたこの季節。
まだ夕方だというのに外はだいぶ薄暗い。
高杉は誰も居ない部屋で一人、桂に借りた本を読んでいた。
静かな部屋に、頁をめくる音だけが響く。
物語は中盤へと差し掛かった時だった。
「たーかすぎ!」
明るい声でひょっこりと顔を出したのは、銀時であった。
集中していた分、いきなり呼ばれると驚いてしまう。
高杉は驚いた表情で銀時を見ると、よほど機嫌が良いのかニコニコと笑っていた。
「…何だよ、何で笑ってんだ?」
本に栞を挟み、閉じる。
それを聞いた銀時は、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの満足そうな笑みを浮かべ、高杉の近くに座る。
そして内緒話をするように、高杉の耳に口を近付け、小さな声で楽しそうに囁いた。
「すげぇいいとこ見つけたんだ!教えてやるから今から一緒に行こうぜ」
「はぁ?今から?」
そう聞き返せば、銀時はそれが当たり前の事かのように力強く頷く。高杉はため息を洩らした。
「外見ろ、もう夏じゃねぇんだから薄暗いだろ?それに勝手に抜け出したら、松陽先生に怒られるだろうが」
「早く戻ればバレねぇよ!」
そんなに行きたいのか、一歩も引かない気らしい。
高杉はじっと銀時を見つめた後、仕方無いというようにゆっくりと立ち上がった。
銀時はそれを了承の意味だと悟ると、嬉しそうに笑い、そして2人で外へ抜け出した。
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いつの間にか握っていた手。
本格的に暗くなり始めた夜道を、はぐれ無いようしっかりと握り合う。
今日は運良く満月で、暗い道をその光で照らしてくれる。
2人の歩く音しかしない。
さっきまで止まる事無く喋り続けていた銀時が嘘のように静かだ。
銀時は少し前を歩いているため、表情は分からない。
何だか少し、不安になる。
それに気付けば見た事の無い景色が広がっている。
「ここは何処だ?」と問い質そうとした時だった。
急に銀時の足が止まる。
高杉は勢い余って銀時にぶつかってしまった。
「うぉ!大丈夫かよ!?」
「お前…止まるならちゃんと言えよ」
久しぶりに聞いたような銀時の声に、少し安堵する。
ぶつかって赤くなった鼻をさすりながら、高杉はキョロキョロと辺りを見渡した。
そんなに歩いてはいないから、寺子屋から近いのだろうけど、こんな所は初めて見た。
民家がポツポツと見える、殺風景な場所だ。
「…ここへ連れて来たかったのか?」
そう言うと銀時は首を横に振る。
「見せたかった場所は、この茂みの向こう」
と、銀時の指差す方向を見ると、自分達より少し背丈の高い草がたくさん生えている茂みだった。
普通なら人は、こんな所絶対入らない。
「ここ…入るのか?」
「は?当たり前だろ」
当然の事のように言った銀時は、ガサガサと茂みの中へ入って行く。焦った高杉だったが、どんどんと中へ進んで行く銀時に意を決して、自分も茂みの中へ入った。
茂みはそんなに距離は無かったようだ。
何歩が進んだところで、茂みは消え、広々とした高原が広がる。
それを見た瞬間、高杉は息を飲んだ。
月明かりに照らされた高原は、不思議なベールを纏っている。
木苺やたくさんの小さな花は、きらきらと光っている。
まるでここだけ、何処か違う国のようだった。
「きれい…」
あまりの美しさに、ほぅとため息が出る。
銀時は微笑むと、頭の後ろで手を組んだ。
「さっき偶然ここ見つけてさ、高杉に見せたかったんだ!」
喜んでくれると思った、と満足そうに笑う銀時を見て、高杉は胸がどきりと鳴り響く。
「高杉、ここは俺達だけの秘密の場所な!」
銀時はしっかりと高杉を見つめる。
「秘密?」
「そ、多分俺達以外でここ知っている奴はいないだろうし、なんか2人だけの秘密とかカッコ良くね?」
「ヅラにも秘密?」
「当たり前!もちろん松陽先生にも!…いいか、2人だけの秘密だからな!!」
銀時と俺だけの秘密、と高杉は思うと、何だか特別なような気がして嬉しくなった。
「分かった」
笑って頷くと、銀時も笑った。
今日はもう帰ろうという事になり、2人はまた手を繋ぐと、寺子屋へと足を運んだ。
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