short story

□silver cross
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日が沈むのも早くなり、秋風が冷たく吹きつくようになったこの季節。
新宿かぶき町では、もう早い時間から目が眩むほどのネオンが光っていた。

それは、このホストクラブも例外では無い。

これといった、人の目を惹きつけるようなネオンでは無い。どちらかと言えば、シンプルなネオン。しかし中に入ってみれば一変して、金や銀、赤などで豪華に飾りつけられていた。

…それもその筈。
今日はこのホストクラブのNO.1ホスト、坂田金時の誕生日なのだ。

「金時さん、誕生日おめでとう」

「良かったらこれ、使って」

今日は自分を指名する客が、何時も以上に多い。
指名されては他のテーブルに移動し、また指名されては移動…、の繰り返しだ。
そして必ず言われる言葉、

"誕生日おめでとうございます"

「ありがとうございます。貴女みたいな綺麗な方に言ってもらえるなんて、幸せです」

笑顔でそう言えば、客は誕生日プレゼントを差し出し帰って行く。
勿論、そのままお酒を飲んでいく客もいる。

客が来る度に指名が入り、次のテーブルまで走る。
こんなにここを走ったのは、今年が初めてだ。最初で、最後。
息つく暇も無いとは、まさにこの事。

しかし、忙しい時間もやがては過ぎていく。
最後の客を見送り、急いで帰る支度をする。急がないと、自分の誕生日が終わってしまう。

「金さん、何か急いでいるんですか?」

後片付けをしていた新八が、疑問詞を浮かべ、問う。
金時はジャケットを羽織ると、小さく頷いた。

「うん、ちょっとな…」

「そうですか、気を付けて下さいね。あと1時間程度しかありませんが…良い誕生日を」

「あぁ、ありがとな」

新八に別れを告げて、金時は足早に店を出る。
風が冷たく、身体に染み渡る。

(もう寝てっかなー…)

時計を確認しつつも、やっぱり逢いたいので目的地へと足を運ぶ。そこに着く間、歩きながら客から貰ったプレゼントを開ける。
中を開ければ、ブランド物や香水、宝石の入ったブレスやリングなど、数千万はするであろう品物が次々と出てくる。
金時は微笑する。
そしてそれらを無造作に、バッグの中へと放り込んだ。
…やっぱり彼女達は、俺の事を何も分かっていない。
ブランド品とかお金とか宝石とか…俺の欲しい物は、そんな物では無いのだ。

気持ちが少し冷めてしまった。
金時は盛大にため息をつくと、気持ちを切り替える。
すると見慣れた看板が見えて来た。"万事屋晋ちゃん"の文字。
恋人、高杉晋助の家。

階段を軽快に上がり、戸を叩く。近所迷惑になり兼ねないので、あまり力を入れずに。

「晋ちゃーん、起きてるー?」

何度か呼び掛け、少し声を張り上げた時、ガラッと戸が開いたと同時に不機嫌そうな高杉が出て来た。

「テメェ…今何時だと思っていやがる…」

着流し姿に、包帯を巻いていない。何時もとは違うその艶やかな姿に思わず理性が吹っ飛びそうになる。
でも、ぐっと我慢。

「あ、やっぱり寝てたんだ」

「当たり前だろ…。こっちはお前とは違うんだよ」

そう言い、一つ欠伸をしてから中へ戻って行く。金時も中へ入ると、急いで靴を脱いで高杉の後を追った。
何時もの部屋へ通されれば、早々とソファーに横たわる高杉の姿。
よっぽど疲れているらしい。
金時は高杉の向かい側にあるソファーに腰を下ろした。

「…で、何の用だ」

「んー?…別に、ただ逢いたくなっただけ」

目を瞑りながら話す高杉に、金時は良いことを思いつく。
本当は誕生日を祝って欲しくて来たんだけど、高杉が俺の誕生日を覚えているかどうか、実験。

「今日も沢山人が来てさ、本当、俺も疲れたよ」

「ふーん…」

会話する気が無いのか、高杉はじっと天井の方を向いている。
金時は小さくため息をつくと、バッグの中へ入れていたプレゼントを取り出した。

「いっぱい貰ったんだけどさ、こんなに使わねェから…晋ちゃん使う?」

机の上に出していけば、高杉は天井からプレゼントへと視線を移す。しかし直ぐにまた天井へと目を向けると、吐き捨てるように言った。

「要らね。お前が貰ったもんだろ?テメェで処分しろ」

「…何か今日冷たいね」

高杉の態度に少し、苛つく。




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