short story

□ひまわり
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その時、ふわりと少し甘い香りが鼻をかすめた。
同時に、自転車がキッと音をたて止まる。

「ついたよ」

銀時の声で顔を上げると、そこは、一面の黄色い絨毯だった。


「どう?すげぇひまわり畑だろ!」


銀時が得意気な顔して笑う。
俺はビックリして声が出ない。

しばらくそこでひまわり畑を見ていたら、銀時が俺の手を握り、ひまわり畑の中へ走り出した。

「ちょっ…!おい!」
「こっちこっち!!」

俺は半ば、銀時に引き摺られながらひまわり畑の中を走った。


自分達より背丈の高いひまわりの中をくぐり抜け、ちょうど真ん中あたりだろうか。
銀時はそこで止まると、地面に寝転がった。
「ほら、高杉も!!」
銀時が自分の横の地面をバンバン叩くので、俺は戸惑いながらもそこに寝転がった。



その目の前に広がるのは、緑の葉や、黄色い花。そして、青い空と雲。


目に映る全てのものが、鮮やかに色づく。



「…太陽、つかまえられそうだな」

俺は真上にさしかかる太陽に手を伸ばし、独り言のように呟いた。




「高杉、誕生日おめでとう」

ふいに銀時が呟く。
銀時の方を向けば、ひまわりのように笑う銀時がいた。



「…ありがと」
きっと、俺も自然と笑顔になっていたんだと思う。
銀時は、ひまわりみてぇ、と俺の顔を見て言った。





今日は8月10日。
俺の生まれた日。

何もいらないって言ってんのに、銀時は「いいもの見せてやる!」と言って、俺に、ひまわりと笑顔をくれた。





俺達は青い空を仰ぐ。

来年も一緒に見れますようにと願いながら、握られたままの手に、少しだけ力を入れた。




















END

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