short story

□silver cross
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何でそんな態度なの?
こんな真夜中に訪ねて来たから機嫌が悪いのだろうか…。
安眠を邪魔したから機嫌が悪いのだろうか…。
いや、2つとも正確だろうが…、何か他にも理由がある気がする。
何だ…?何か悪い事でもしたのか?
でも悪い事をしているのは高杉の方じゃないか。
ただ俺は、誕生日を祝って欲しいだけなのに…。

時刻はPM11:50。
俺の誕生日も、あと10分。

どこで気付くか試そうと思ったけど、もう止めた。
金時は腕を組み、高杉に言い放つ。

「晋ちゃんさー、今日何の日か知ってる?」

「お前の誕生日」

「うんそうだよ…、って、えっ…?」

耳を疑う。
少しも表情を崩さない高杉に、もう一度問いかける。

「ごめん晋ちゃん、もう一回言う。…今日何の日か知ってる?」

「金時の、誕生日」

視線を天井から、金時へと移す。最初から知っていたと言わんばかりの、真っ直ぐな瞳だった。

「えっ…だって晋ちゃん、何も言ってくれてねェし…」

「店で耳にたこが出来るくらい言われてきたんだろ?なら俺が言わなくてもいいだろォが」

そう言った瞬間、いきなり立ち上がったと思いきや、何処に隠していたのか…小さな箱を投げつけられる。
青の包装紙に銀色のリボンが巻いてある、綺麗な箱。

「そんだけ高価な物とか貰ってりゃ、俺のなんてこれっぽっちも価値ねェけどな」

拗ねたように言う高杉。
…もしかして、機嫌悪かった理由って、これ?

「ねぇ、開けていい?」

そう言えば高杉は、急に恥ずかしくなったのかそそくさとソファーに座りこちらに背を向ける。
自然と顔が綻んでしまうのを抑えつつ、出来るだけ綺麗に、包装紙を外していく。
中から出てきたのは、俺が貰った中では一目で安物だと分かる、十字架のシルバーネックレス。
でも何故だろう。俺には今まで貰った中で、1番高価で、1番綺麗に見えた。

「…晋助」

小さな背中を、後ろから抱き締める。嬉しくてたまらない。今日の中で、1番嬉しいプレゼント。

「ありがとう。すっげぇ嬉しい」

「ふん…。どうせ店でも、女共に同じ言葉を吐いてきたんだろ」

「ううん、こんなに心を込めて言ったのは、晋ちゃんが初めて」

高杉はちらりとこちらに顔を向ける。耳まで真っ赤にしている高杉に、もう限界。
金時はそのまま、優しく押し倒す。誕生日も、残り1分。
最後にどうしても、聞きたい言葉。

「ねぇ晋助、俺に言わなきゃいけない事…あるでしょ?」

「はぁ?もういいだろ」

「よくない。晋助から、聞きたい」

甘く囁いてやれば、押し負けたのかおずおずと口を開く。
時計の秒針が残り5秒を差した時だった。

「…金時、誕生日おめでとう」

刹那、鳴り響く0:00の鐘の音。
10月11日。
誕生日が、終わった。

それでも心はすごく満たされていた。…今日、いや昨日1番、心地良く響いた祝いの言葉。

「…ありがとう」

そう口にし、ゆっくりと互いの口唇を重ねる。
長くもなく、短くもない、静かな時間。
唇を離せば、まだ少し物足りなさそうな表情を浮かべる高杉。
本当はここでシたいとこだけど、向こうの布団の中まで我慢。

「…向こうで続き、していい?」

「…仕方ねェな」

そう言い抱きついてくる高杉。
金時はそのまま抱きかかえ、向こうの部屋まで運ぶ。

「金時、」

襖を開けようとした時、高杉から名を呼ばれる。
耳元に高杉の柔らかい唇が当たり、小さな吐息と共に囁かれる。

「生まれてきてくれて、ありがとう」

驚いて高杉の顔を見る。
微笑する高杉と視線が重なり、どちらとも無く、さっきよりも深く口唇を重ねた。

(幸せって、こういう事を言うのかな…)

ふと頭によぎる。
でも、今はそんな事考えずに、このまま…。

机の上では十字架が、どの宝石にも負けないくらい光輝いていた。









END

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