捧げ小説

□8時間目:特別授業
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――キーンコーンカーン…………


「はい、今日はここまで。江戸川君は、号令かけたら私の所に来て下さい。終わります」
「起立」


委員長が呼び掛ける。
途端、大きな音を立てて、皆バラバラに立ち上がった。
―コナンに羨望の眼差しを向けながら。

白衣の上からでもわかる豊満な胸、しかしウエストはキュッと締まり、日本人離れした整った顔立ちを持つ志保は、
媚びない姿勢が推して、全校生徒の憧れの的だったのだ。


「気をつけ。礼」
「ありがとうございました」


一斉に、声色を交えて挨拶をする。
こうして授業は移りゆく。

いつもなら何事もなく過ぎる時間に、今日はコナンがゆっくりと志保の方へと歩んだ。
理科室に、自分達以外誰もいなくなってから、辿り着く。
足音が止まり、志保も顔を上げてコナンを認識した。


「―江戸川君。ゴールデンウィークの宿題、出してないわよね?」
「あー……はい」
「あなた、ずっと欠席してたから、言えなかったのよ。明日、出してちょうだい」


要点だけ伝えて話は終わり、口数の少ない志保らしい。
一方のコナンは、期限を大分過ぎていたため、もう出す気はなかったのだが、
改めて出せと言われても……。


「解けなさそうで……」
「え?」
「化学、苦手なんですよ」


渋い声を出す。
苦手というより、苦手意識。
今まで、きちんと授業を聴いていたことがない。


「…仕方ないわね。じゃあ放課後、一緒に解く?」
「いいんですか!?」


びっくりしたのも確か、でもすぐに「放課後に宮野先生に会える!」と浮き立った。
これをきっかけに仲良くなれるかも。
にやけそうな顔を抑え込む。


「それが私の仕事なの。ほら、そろそろ行かないと次の授業に遅れるわ。放課後、ここでね」


先生優しい、と声を上げたコナンに、志保はフイと顔を背けて、いかにも不機嫌そうに言った。
常日頃とのギャップを考えると、その様子がとてもかわいらしくて、コナンは思わず笑ってしまった。
普段通りに戻り、何笑ってるのよ、と言われたときは惜しいと思ったが、
それでも、自分しか知らない宮野先生を見られた、というこの上ない幸せに浸った。
そして単純ともいう明るさで、世界は薔薇色だ、と思ってみた。





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