捧げ小説
□There are.
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「コナン君、来ないねー」
歩美が呟いたのは、予鈴が鳴ったときだった。
普段はコナン、哀、探偵団のメンバーで登校するが、今日はコナンは用事があるとのこと。
「事件ですかね」
何の気なしに光彦が応対し、それに元太が便乗する形で、いつものように会話が弾む。
「殺人かもしれねーぞ!」
「誘拐かなぁ!?」
「強盗も有り得ますよ!」
「もしくは、江戸川君自体が既に殺されているか……」
一人だけ、確実に違う空気を放っている灰原哀は、年不相応な本に目を流しながら、さらっと言い退けた。
事件を楽しそうに語るのもどうかだが、彼女の発言は一瞬にして周りを氷らせる。
探偵団三人、同時にえ゛、と声を上げた。
「―なーんてね。どうせサボりじゃないの?」
先程の態度とは裏腹、哀はクスッと笑うと肩を竦めた。
不自然なトーンの上がり方から、頑張って、冗談だと受け取れるものの、随分後味の悪いブラックユーモア。
しかしこの三人は慣れている様子、気にしないどころか丸め込まれる。
「そっかー」
「あいつ、よくサボってるもんなー」
その一方で。
(あの子達には、ああ言ったけれど……)
――胸騒ぎがする。
コナンの席に、荷物がないのだ。
…暗黙の了解で、サボる時は鞄を置いてからとなっていたのに。
(何かあったのかしら……?)
加速してゆく時間を恨んだ。
五分前から頻度を増す、見下ろす視線。
目立つのは、遅刻常習犯の駆け込みばかり。
よくわからない不安の元凶に心拍は踊らされ、しかし違和を感じる程、妙にクールさを保って頬杖をつく。
そこへ、騒ぎを持ってきたクラスメイトがいた。
「ビッグニュース! B組の委員長、来てないんだって!」
(え……?)
人付き合いの薄い哀でさえ、超がつく真面目な女の子だと聞いたことがあった。
当然、遅刻するタイプではないと。
連絡も入っていないらしい。
隣のクラスがざわついているのは、このことかと合点した。
「…ねえ。やっぱり……」
歩美は不安げに声を落とした。
他の二人も口にはしないが、深刻そうな表情をしていた。
サボり癖のあるコナンと、遅刻するはずのない委員長。
結びつけて“事件の香り”とするのは、言わずもがな難しくなかった。
「…あなた達だって、連絡を忘れることくらいあるでしょう?
それに二人の関係も、まだわかってないのよ」
「う、うん……」
だけど……と顔を見合わせる探偵団を、哀は遮った。
「チャイム鳴るわよ。席について」
釈然としないまま、HRが始まった。
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