捧げ小説
□見えない明日
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「工藤君!」
頭の中が真っ白になって……
気づいたら、赤く染まっていく私の手――。
これは…誰の血……?
「いや……」
一言だけ呟くと、私は悲鳴を上げるわけでもなく、
ただずっと彼を見つめ続けていた――。
***
―ザッ。
砂利の上を歩く音だけが辺りに響き渡る。
「どうして……私を庇ったの?」
お供えの花を置く彼女の影が、雷により照らし出される。
「約束……したわよね。『どちらかが死んでも後は追わない』。
私から言い出したのも覚えてる。でも私……そこまで強くなれなかったみたい」
雨が降り出し、風が唸りを上げる。
「これ以上、私のせいで傷つく人を見たくないの。
大切な人を失いたくないの」
赤みのかかった茶髪が頬にまとわりつく。
彼女の頬を伝うのは、雨なのかそれとも――。
「この世の中って……理不尽よね。
いい人ばかりが早く死んでいって、生きることを望まない者ばかりが残される。
それともそれが、罪人への罰なのかしら……?」
もしそうなら、罰に耐えきれる人はどれほどいるのか――。
罰と思わず、生きることが善なのか――。
「楽になっても……いい?」
彼女が供えた花は、激しい雨に、
儚く散ってしまった。
End.