ボツネタ倉庫
□ボツネタ倉庫
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【ボツ1】
『よかった。
あんた思ったよりも元気そうで』
いつだか、叶絵が嬉しそうな、ほっとしたような顔で言った。
―――
そっと、音をたてないように扉を開ける。
誘惑に負けて学校帰りにクレープなんか食べなきゃよかった…
飛んでくる足か、のびてくる腕か、それとも家具・拷問具 etc…を激しく警戒する。
あいつはいつも容赦がない。
定時と決めた時間に秒単位でも遅れた瞬間、拷問が始まる。
この間はホームルームで遅れたってだけで、10分吊るし上げられた後、新しく買ったあらゆる拷問器具の性能テスト、とかいって、依頼人が来るまで酷い目にあったのだ。
警戒するのは当然。
…それで行かねば、今度はさらなる酷い仕打ちを受ける羽目になるから、私はこうして事務所の前に立つわけで…
「ご、ごめん…遅くなった」
なるべく小さな声で部屋の中を覗きこむ。
痛みの伴う衝撃を思い浮かべて、無意識に体を固くした。
けど
「………あれ」
ドアにへばりついて身構えていたのに、想像していた衝撃はいつまでたってもこない。
「……ネウロ…?」
ようやく視線をネウロの定位置・トロイに向けたが、飛び込んでくる最早見慣れた青いスーツ姿はそこにはなくて。
「いない…?」
少し視線をずらせば、いつものように壁から生えた髪の毛の秘書が、その艶やかな黒髪を振って迎えてくれた。
秘書と挨拶をその場で交わす。
―不在とは珍しい。
主のいない部屋にようやく足を踏み入れた。
「…あかねちゃん、ネウロは…」
どこへ、と聞こうとした瞬間、彼女は髪の毛を揺らしてホワイトボードの文字を差した。
『ソファー♪』
瞬間飛び込んできたのは、青いスーツ。
…ではなかった。ベスト姿だった。
扉からは死角になっていて見えなかった不思議な金・緑の髪色がそこにあった。
そっと覗きこむと、
「…ねてる…」
小さな規則的な寝息が聞こえる。
仰向けに寝転がり、手をお腹の上で組んで。
数日前、手酷い拷問をしてきた本人とはおもないほどに、穏やかな寝顔。
サイと戦って帰ってきた以来だ、この寝顔は。
あかねちゃんがまるで口許に指をたてるように、毛先をたてた。ボードには『寝たばかりなので、静かにね』と、気遣いの言葉。
私は小さく頷いて、口チャックのマネ。
私はそのまま、観察するようにまじまじと寝入っている魔人の顔を、ソファーの背から身を乗り出して見つめた。
―それにしても。
こうしておとなしくしていれば、このドS魔人も人間と容姿は変わらない。
髪の毛の色は変わっているが。
けれど、ひとたび今は閉じている瞳を開けると、雰囲気は大分変わる。
螺旋模様を描いたような瞳は、魔人特有のものなのか。
深緑の瞳に浮かぶそれは、不思議と心を引き寄せる。
魔性を感じる。妖しさを感じる。
それは、人外であると少しの恐怖を脳に伝えてくる。
だがそれとはまた別に、
最近、時折感じるのだ。
その瞳に、美しさがあることを。
それはまるで、自然界の深みのような。
(絶対本人には言わないけど)
──
4月25日が最終更新。さらせなかった初書きネウヤコ?でした。寝てる…。
初過ぎて行き詰まったのかな?というやつ。