花ロマ文庫1

□第四話
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「菫のやつ、ともゑの様子に気付いてんじゃねーの」 
いつの間にか、桔梗の後ろに葵が立っていた。
 
「葵さん。バスルームへ入ったんじゃなかったんですか?」
 
 振り返ろうとした時、葵が桔梗の腰に、後ろから腕を回してきた。
 
「動くなよ、前向いてろ」
「……ンッ」
 
耳元で囁かれ、ふいに息と同時に声が漏れた。
 
「葵さん、会議に間に合いませんからっ……」
「そんなもん、どーでもいい。俺は今、桔梗ちゃんの躾中だから忙しいんだよ」
 
 腕から抜け出そうとするが、力強い腕はなかなか桔梗を解放してはくれない。それどころか、葵の手はゆっくりと桔梗の首元まで上がり、背後から器用にシャツのボタンを外していく。
 
「葵さんっ」
「桔梗ちゃんがさ、ともゑと寝たお陰であの菫が頼もしくなってるぜ?良い事してやったじゃん?桔梗せんせ」
 
言葉の端々に、葵が苛ついてるのが手に取る様に分かる。
やはり、この人にはかなわない。
 
「何の事……っ」
 
葵はシャツがはだけて露出した、桔梗の肩に、口をあて、軽く甘噛みした。
 
「まだそんな事言って、お仕置き足りない?桔梗せんせ」
 
桔梗のベルトを外して、葵の指先がズボンの中に入っていく。
 
「あっ」
「どーすんの、このままじゃともゑはダメになっちゃうぜ?」
 
桔梗は葵の胸にもたれかかった。
 
「私は……ッ」
「同情で抱いても、余計混乱させるだけだ」
「分かっています、でも」
 
桔梗は葵と向き直り、瞳を真っ直ぐに見つめる。
 
「あまりにも、似ていて……」
 
そう言ってうつむいた。
 
「桔梗は、優しすぎるんだよ」
 
葵は桔梗の頬に触れるとキスをした。
 
「学校へ行くぞ、桔梗」
「葵さん……」
 
 キスの後、葵はすんなりと桔梗を解放して、用意された白いシャツに腕を通した。
 
「会議、あるんだろ?」
「あの、葵さん」
「いいから、行くぞ」
 
 
―― 
分かっています、分かってるんです
あの子が本当は、私に何を求めていたかを
 
それは身体の繋がった愛情ではなく
ただ優しくして欲しかった
暖かく抱き締めて欲しかった
 
愛情に飢えたあの子の願い
幼かった頃の私の願い
そうする事でしか存在を確認できなかった
 
その真っ直ぐな、切望する瞳は
あの頃の私を連想させる
 
あの子はあまりにも私に似ていて
 
 
 
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