花ロマ文庫1

□第十話
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 ふと、ともゑの右目にある傷痕に視線がとまる。
普段は気にしてなかったが、こうして見ると傷痕ははっきりと残っている。
幼い頃に大きな怪我をした事は聞いていた。
今でもこうして痕が残るくらいなのだから、とても痛かったし苦しかっただろう。
傷の事を聞いても、ともゑはいつも悲しそうに笑っているだけだった。
昔からいつも一緒にいたはずなのに。
いつも肝心な事が思い出せない。
ともゑが傷を負った時、自分は一体何をしていたんだろう。
 
 菫は、傷を指で触れてみた。
綺麗な顔に似合わない、残酷な傷痕。
埋まる事のない二人の心の隙間のようで、思わず顔をしかめる。
 
「おれが、ともを傷つけてしまった痕……」
 
 
――おれが?
 
ふと自分の口から出た言葉に戸惑う。
 
「おれが、ともに?」
 
チクリと痛む頭を抑え、何度も瞬きをする。
頭が痛い……でも、大切な何かがそこにある気がして、自分の記憶をたぐり寄せる。
すっぽりと抜け落ちた、大切なこと。
ともゑと、傷痕。
パズルのピースを合わせるように、砕けた硝子を繋げ合わせるように。
ひどい頭痛で気が遠くなり、背中に嫌な汗が流れるのを感じる。
 
「痛っ」
 
失った過去と幼い時。
忘却された確かな記憶。
 
 
 
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