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□さあ、物語が始まるよ
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「お姉さん、だ、大丈夫ですか!?」
──あの時響いた声が天使のものだと言われても、
きっと私は、信じていただろう。
さあ、物語が始まるよ
血は大分止まっていた。しかし、流したものは致死量には至らずとも、しばし身動きも許さない状況に追い込む程度ではあったらしい。
失敗したな、そう思いつつ息を吐くと、一気に力が抜けて私は横倒しに倒れた。
森の中の一本道には、人通りは少ない。
たまに道をゆく人は皆、私の姿を恐れて逃げるように走り去っていった。
無理もない。
刀傷をつけた、明らかに一般人ではない風貌の人間なんか誰も関わりたいとは思わないだろう。私だってごめんだ。
──だからその声に、夢を見ているのかと思った。
しかし傷口を灼く痛みは、今もじくじくと続いている。
それは同時に、目の前にいる年端もいかない少年たちのことも、確かな現実だと告げていた。
「すげえ血だな。生きてんのか?」
「うん……弱いけど、ちゃんと脈も呼吸もあるみたい」
「らんたろー、だいじょうぶ?このひと助かるの?」
「わ、わかんないけど…とりあえず応急処置しなきゃ!こういうときはえっと、まず止血止血!」
くるくると、少々震える腕が私の肩口にきつく包帯を巻く。眼鏡の奥の目はまっすぐに私を捕らえていた。
その目に、私に対する怯えはなかった。
「きり丸、学園戻って先生呼んできて!」
「ほいきた」
「しんべヱは手当て手伝ってくれる?」
「う、うん!」
鋭い雰囲気の少年が元来た道を駆け戻っていく。ふっくらとしたもう一人の少年は、太い眉をへにゃりと下げながらも私の近くへ座り込んだ。
「だいじょうぶだよ、すぐにきり丸が先生連れてきてくれるからね」
……君たちは、一体?
そう問い掛けようとした次の瞬間、私は微睡むように気を遠くした。
今この目を閉じて、次に目が開くかはわからない。
でも、開いたなら。
開いたならきっと、彼ら三人の笑顔が目の前にはあるのだろうと、私は何となく確信していた。
了.
行き倒れてるところを三人に介抱されるって、とてもうらやましいと思います。
でも行き倒れるのは嫌です。
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