□遠ぃ日の約束
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あなたは覚えてますか?
幼い時の あの約束を…
60年間待った今日、
 
……聖なるイヴの日に

思い出のこのモミの木で
待ち合わせしたあの約束を…。

外国へ離れたあなたを私は
 
ずっと待ってたの…。
 
80歳を過ぎた今でも…。
近くのベンチに腰かけて
24日、一日中待っていた。
 
『もうそんな昔の約束、
あなたは忘れてしまったわよね…』
 
しわしわに変わった手を擦りつつ
はぁーっと白い息を吐く…。
 
この歳になっての寒い夜はキツい…。
 
ウトウトと眠くなる……。
 
 
そんなときに伸びた一本の白い手…
 
『伊月(イツキ)さん、』
 
と私の名を呼ぶ彼の声。
 
『太一郎(タイチロウ)さん』
 
振り向けば若いときの彼が居る。
 
『長い間またせてごめんなさい…』

彼は深々と頭を下げた。
60年前と同じだわ…。
私はにっこりと笑った。
 
『私、待ち過ぎでよぼよぼのお婆さんよ』
 
そう、もうお婆さんなのよ…、
 
何故か涙が流れる…。
やっぱりいくつになっても
好きな人の側では綺麗でいたいから…
 
彼は呆れたように笑った。
 
『伊月さんはいくつになっても綺麗ですよ、』
 
その言葉で体が軽くなる…。『お待たせしました。行きましょう』
 
彼の手に乗せた私の手は若返ったように
しわが消えていた。
 
『はぃ』
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その夜…独りのお婆さんは
笑顔で眠るように亡くなっていた。
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