「私、大学に行きます!」
そう、サリナがいきなり宣言したので、
「え〜!?」
とお店のみんなはびっくりした。
サリナは25才になっていた。
もうお水歴7年のベテランだ。
しかも、未だ処女である。
さすがに、本人も最近はかなり気にしているらしいのだが、まわりは知らないからキツイ下ネタふってくる。
すっかり耳年増になってしまったサリナは、涼しい顔で受け流すけれども、ほんとは、私、処女なのに…と心の中でつぶやいている。
今年度で弟君が大学卒業予定していて、就職も内定していたから、
「お店辞めて、今度は弟に食べさせてもらおうかな〜」
なんて冗談も言っていたのに、なぜ今になって大学進学するなんて言い出したのだろう?
「今度は、お勉強よりも青春謳歌しに学校通いたいんです。私、子供の頃からお受験やら習い事ばかりだったのに、やっとこれで最後の受験だと思った大学受験の前にパパがいなくなっちゃって、受験どころじゃなくなってこのお店に来たんです。でも、全然青春してこなかったからこの辺で一度はじけてみたいな〜とか思ったりして…で、大学に行くことにしたんです」
とサリナは語った。
「お店はどうするの?」
「続けさせてください。入学金や授業料稼がなくちゃならないので」
「両立するの大変でしょう?それにお母さん…」
店長が言いかけて口をつぐむ。サリナの母親は精神的ショックから、一時期家事放棄していたのだ。
「最近は、母も吹っ切れたみたいで、家事もちゃんとやってくれるようになって、助かっているんです。弟も卒業してちゃんとした社会人になってくれそうなので、次は私がやりたいことやってもいいんじゃないかな〜って思ったんですけど、25才で受験生するのは変ですか?」
「別にいいんじゃないかな?六本木あたりのキャバクラでは、授業料稼ぎながら大学行っているコなんてゴロゴロいるよ」
店長が、さらりと助け舟を出す。
「本当に、私、大学行ってもいいですか?」
「いいよ。がんばりなさい」
サリナは、店長にそう言われて、顔には出さないが、内心ヤッター!と大喜びしていた。
これで、あと4年この店に居座る口実が出来たのだ。

ちなみに、塾にも行かず、弟君の参考書や教科書と、新たに買いたした参考書だけで受験勉強をしたサリナは、すんなりと第一志望に合格してしまった。
高校出たての現役合格組とサリナとでは、7才も年の差があったのだけれども、すっぴんだとめちゃくちゃ若く見えるサリナは、学内で浮かなかった。
夜化粧するから…と大学には化粧して行かなかったのだ。
新入生獲得のためサークル集団がサリナめがけて殺到してきたのだが、サリナが所属したのはとても地味なサークルだった。
はじけたいんです発言とは裏腹に、写真部なんて地味系サークルに入ったのには訳があった。
「私、大学のサークル、写真部に入ったんです〜。練習に店長の写真撮らせていただいていいですか?」
と言って店長の写真を撮りまくり、サリナはまんまと愛しの店長アルバムを自力で作成してしまったのだった。

『店長に毎日逢えること』
それが、サリナの一番の願いであり幸せだった。
7年も送りの車内で寝言の振りして告り続けても、指一本触れてこない人なのだ。
サリナに気が無いのは、サリナ自身がよくわかっていた。
けれども、たとえ片思いでもサリナは店長のそばにいたかった。
店長の姿の見えるところにいたかった。
店長の声を聞いていたかった。
いつか、あの阿佐ヶ谷の店を辞める日までは…。

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