小説〜ガッシュ〜

□それは幸せの欠片
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「清麿、チョコが欲しいのだ!!」








「…………ほお」

たっぷり五秒程間を置いて返事すると、ヌオオと泣きながら床を叩くガッシュの姿が目に入った。
これでは集中できない。仕方なく読んでいた本を閉じて椅子をガッシュの方へ向けた。

「泣くなよ。で?チョコが欲しいとか言ってたな」
「ウ、ウヌ…」

グスン、と目元を拭う。

「今日は何の日か知っておるだろう?」
「………愛の守護神と呼ばれたバレンティヌが亡くなった日だな」
「それは知らぬ!いや、それではないのだ!今日はバレンタインであろう!?」
「…それがどうかしたか?」
「私は、清麿からチョコをもらっていないのだー!!」
「それで?」
「だ、だから…っ」
「もうもらってるんだろ」

ティオや恵さん、公園の友だちとか。
ガッシュは人気者だから、夕方の今ならきっといろんな人からチョコをもらっているはずだ。

「しかし、私は清麿から…!」
「食い過ぎだな。カロリーオーバー。もういらないだろ」
「清麿〜!」

ぷいと視線を逸らすと、下から大袈裟な泣き声が聞こえる。
ガッシュはやさしくていい奴だから、みんなに好かれるのは当たり前だ。
わかっているが、どうにも胸がモヤモヤムカムカして気に食わない。
バレンタインは、国によって習慣の違いはあれど、好きな人、感謝している人に心を込めて何かを渡すことに変わりはないのだ。
ガッシュのことを大切に思っているのは、自分だけではない。

「……っ」

――恥ずかしい。
結局オレは、拗ねてるだけじゃないか。

「清麿?顔が赤…」
「うるさい…。ガッシュ、目を瞑れ、今すぐだ」
「何故、」
「早く」

首を傾げながらも、ガッシュは大きな瞳を閉じた。
その前に手を翳して開かないことを確認してから、そっと机の引き出しを開ける。
そこに入れておいたものを取り出すと、カサリと音を立てた。

「いいか、いいって言うまで目を開けるなよ」
「ウ、ウヌ」

大きく息を吸い込んで、ガッシュの頭の上まで手を持っていって――
勢いよくひっくり返した。

「ヌアッ!?」

バラバラと小さなものがガッシュの頭を攻撃する。
よほど驚いたのか、ガッシュは大きく目を見開いた。
そして、床に落ちているのを見てポツリと呟く。



「………チョコが、いっぱい…?」
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