小説〜ガッシュ〜
□君と俺とかたつむり
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時折水溜りを揺らす雫。
空から零れ落ちたそれは、傘を閉じてしまったために二人の髪を濡らしていた。
またひとつ落ちて目許を濡らす。冷たさに目を細めて空を見上げれば僅かに光が差していた。
「晴れてきたな…」
小さくつぶやくと、隣で鼻歌を歌っていたガッシュがそのままの調子で返してくる。
「ウヌッ!明日は外でたくさん遊べるのだ!」
心底嬉しそうな言葉の裏に”清麿と一緒に”が隠れているのは当たり前のことで、照れくさくなってそっぽを向いた。
無意識なんだろう、しかし、真っ直ぐな感情を向けられるのは恥ずかしい。
同じ感情を持つなら、尚更。
「あ、」
向いた先には、ぴんく色の紫陽花が咲いていた。その上には、のそのそと動く殻。
「かたつむりだ!久しぶりに見たなあ」
紫陽花の前で立ち止まり、清麿は顔を綻ばせた。
かたつむりはゆっくりとどこかに向かって進んで行く。
「ウヌウ、かたつむりか…………」
「なんだ、苦手か?」
「そんなことはないのだ、ただ…」
「ん?」
問い返すと、ガッシュは隣に立った。
見ると、予想通り渋い表情をしている。
「かたつむりはずるいのだ!」
「は?」
「清麿は、かたつむりを見ると嬉しいのだろう?」
しゅんと見上げてくる瞳に映るのは、自分の呆気に取られた顔。
「………嬉しい?」
「私が清麿の帰りを待っていたとき、清麿はかたつむりを見て喜んでいたではないか!」
間抜けな声に返ってきたのはやけに切実な台詞で。
かたつむりと聞いて思い出すのは、つい最近のように思える戦い。
玄関で待っていたガッシュに気付かず「かたつむりだ!」と言ってドアを閉めてしまった。
悪かったなと思い返していると、ガッシュにぐいと手を掴まれて引き寄せられた。
「うわっ!?急に何…」
「私とかたつむり、どちらのほうが好きなのだ?」
「へえ?ガッシュとかたつむり?」
顔が近いと文句を言う間もなく投げかけられた問いは、どう答えればいいのやら困るものだった。
しかし、琥珀色の瞳は真剣にこちらを見つめているし、掴まれた手もひどく熱い。
「あのな、ガッシュとかたつむりを比べるなんて無理だ」
「しかし…」