abyss

□託されたのは願いか約束か
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――ここからはホドがよく見渡せるからな。



『ルーク』よりも若干低い声で『彼』はそう言った。
ああ、『彼』は『ルーク』の約束を果たすために自分たちの前に現れたのだ。『彼』が『ルーク』ではないと知らない同行者たちの何と滑稽なことか!(知らなくて当然だ。確信してもなお、『ルーク』が帰還すると愚かに信じて、告げもしなかったのだから!)





ティアは『彼』が『ルーク』ではないのだと知って、とうとう座り込んでしまった。(おそらく、彼女こそ『ルーク』の帰還を待っていた)



「約束は果たしてやった。俺はもう行く」


「お待ちになって下さいまし! キムラスカへはお帰りになりませんの?」


「どの面を下げて帰れと言う、ナタリア。帰ってどうしろと? この俺に『ルーク』に戻れと、そう言うのか!」


「……そんなつもり言ったのでは、あ、ありませんわ……」



涙ぐむナタリアに『彼』は一瞥もしなかった。
だが、『彼』はこちらを見た。今すぐに殺してやると言わんばかりに睨み据えている。常人なら間違いなくこの場を逃げ出していることだろう。


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