abyss

□言葉喪くすほど、僕は佇むほかにすることがない
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冷たくなってゆく身体を抱きしめて、子供はただ呆然としていた。
何でこんなことになったのかなんて分からない。ただ、彼が、アスラン・フリングスが、魂の灯火を消した。それだけは分かってる。尊敬していた師匠が策を弄して、己の同胞(レプリカのことだ)に殺させた。でも、師匠もレプリカも憎いわけじゃない。憎いのはそうさせてしまった己。

だから思うのだ。あの時、アクゼリュスが崩落した時、己が死んでいれば、師匠はこんなことをしなかっただろうか? 秘預言(クローズドスコア)通りに戦争が起こっていれば――。(いや、例えそうなっていたとて、あの人は殺していたのかもしれない。何せ、彼は有能な軍人だから)



「何を考えていますか」


「何にも」


「嘘はいけません」


「ほんとだよ」



ジェイド・カーティスは嘆息した。
先ほどから子供はずっとこの調子なのだ。おかげで周りには誰もいない。子供と自身を除いては。

フリングス少将の遺体はすでにここにはない。軍が引き取っていったからだ。おそらく、清められて少将の両親と対面する頃合だ。


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