abyss

□偽物(レプリカ)に捧げられし鎮魂歌(レクイエム)
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生み出されてたった七年の子供の名は『ルーク』。被験者(オリジナル)の名を与えられた。ゆえに偽物(レプリカ)としての名がない。
彼には何もかもが与えられたが、それらはすべて最初から被験者のためだけのもので、本来、子供のものでなかった。

そう、最初から子供には何もなかった。

子供にあったのは、与えられた居場所を守るために七年間をかけて築いてきた人間関係だけだ。それ以外には何もない。

過剰なほどに溺愛する母。必要以上の会話をせず、異常なほど子供に無関心な父。幼い頃からいつも一緒だった幼なじみの使用人。過去の己を取り戻そうと躍起になる、同じく幼なじみのキムラスカ王女。庭を花で埋めてくれた庭師。口うるさい執事。そして、一番欲しい優しさをくれた師匠。

子供は閉鎖的な環境の中で、それでも優しさを知り、だが、それを外に出す方法を知らない。
表面的な所作や振る舞いは貴族そのもので、だが、その意味を知らない。



「俺は幸せだったな」


「突然何ですか」


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