abyss

□お世辞にも綺麗ではないそれを僕は綺麗だと言う
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オリジナルではない己は死ぬしか道がない――それを一体誰が否定してくれるというのだろうか。



『死』の恐怖から逃れて、多くの犠牲の上に己は生き残った。生き残ってしまった。(死にたくないと願ながら、一人生き残り、罪悪感にかられるなんて矛盾し過ぎている!)



「生きてる」



呟いて安堵のため息をついた。
ルークは思わずその場にしゃがみ込んで両の腕で自らの身体を抱きしめた。

ここはベルケンド、音機関研究所の一室。シュウ医師のいる医務室だ。
レムの塔で、多くの同胞を犠牲にして障気を消し、そして、ともに消えるはずだった己は生き残った。そのことで、周りは心配して検査を受けることになったのだ。
やはりというか、案の定と言うべきか、血中音素が極端に減り、不安定になっているという。

緩やかな乖離は、もう始まっている。

生き長らえる方法はなく、己には形を残さない完全なる死を待つしかないのだ。
何より、恐ろしかった。死にたくない、そう思う。死んでしまったら、これまでのすべてが無くなってしまうような気がして。



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