abyss

□ノクターン、それは無償の愛
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「……まぁ、好きにするといいでしょう。
ああ、本当に惜しいですね。こんなにも良い出来映えはもう二度と望めないかもしれない」



ディストは酷薄に嗤うヴァンを見やりながら嘆息した。

この男は狂っている。すでに狂ってしまっている自身が言うのも難だが、それにしても狂っている。預言(スコア)を憎み、世界を憎み、人間いや被験者(オリジナル)を憎んでいる。被験者だけではない。偽物(レプリカ)でさえ、次世代の人類であると信じていない。
当たり前だ。これは人間ではない。ただの。

そこまで考えてディストは我に返った。
いつの間にやら消えているヴァンに気がついた。だが、偽物はまだ目の前にいる。茫洋としながら、とても透明な瞳でこちらをじ、と見ている。見透かすわけでもなく、ただ見ている。座ることも知らない(当たり前だ、刷り込みをしていないのだから!)のか、寝転んで、見ている。



「全く、あなたも運が悪いですね。私やヴァンなどに使われて、野垂れ死ぬのが運命などと」



口にしてからディストは自嘲気味に笑った。そんなこと、言うことも、ましてや思うことさえ自身には許されていない。

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