abyss

□ノクターン、それは無償の愛
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許されていない代わりに自身には、間違っていると分かってなお進む道がある。その道にしか、自身の救いがないのだと、頑なに信じて――。



∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



子供は先の運命など知らずに、目の前の妙な男(妙と称せるほどに知識もなければ言葉もこの子供にはないが)を見ていた。見ているだけだ。そこに興味もなければ意志さえ存在しない。
不意に子供の意識は逸らされた。別の気配がこちらに来たからだ。
子供は飽きもせず、また見つめた。そうして初めて興味が湧いたように目を見開いた。まるで初めて視界が開けたように。



「悪趣味ですね」



小さく囁くように洩らされた言葉さえ、聞こえていないように。ただ見つめた。確固たる意識を持って。
子供は衝動に任せて床を這うようにそちらに移動し始めた。

やって来たのはヴァンと子供。
紅い髪の毛と翡翠色の瞳の子供。

自らも朱いのだと知らずに、ただ近づこうと這う。だが、それは唐突に終わった。蹴りつけられたからだ。恐怖ではない感情で、その子供はありありと嫌悪を示した表情のままで、蹴った。

子供はそれを抵抗もせずに受け止めた。

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