abyss

□ノクターン、それは無償の愛
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どうして! どうして! 自身のいるべき場所を偽物が埋めてしまっているではないか!
金色の髪の幼なじみは転げて泣き声を上げる偽物を叱咤して、母と呼ぶべきその人は穏やかに笑い見守っているではないか!
顔が不快に歪んでいるのが分かった。居場所を失ってしまった。そう思った。二度と帰れないのだと。


朱い子供は泣いていた。全身で痛いのだと。他にどうすればいいのか知らないから。
金色の髪の子供は声を上げて泣いてはいけないと諭し、もう一人の大人はにこにこ笑って頭を撫でた。
ファブレの屋敷に来てからというもの、朱い子供はいろいろなことを知った。言葉、習慣。それらすべては少なくとも朱い子供のために用意されたものだ。悪意に傷つくこともあったが、概ね幸福だろう。
それにいずれは慣れてつまらなく感じる日々がやってくるのかもしれないと、予想もせずに(子供だから仕方ない)。


無償で与えられるこれは愛なんだと疑いもせずに信じた。彼はあの紅い子供の暴力にさえ、愛を感じていたのかもしれないのだ!










ノクターン、それは無償の愛
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