abyss

□ノクターン、それは無償の愛
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意識は曖昧で、身体の感覚もあまりない。境界がないみたいだ、と思考の片隅で思う。そういえば視界がない。目を閉じているせいかとも思ったが、どうやら違うらしい。違う。そもそもこの思考は誰の思考だ?


わからない。

分からない。

解らない。

判らない。


これは誰だ? このあやふやな存在は誰だ? これが『わたし』なのか? 『わたし』は誰?





「ディスト、これは使い物になるのか」


「ええ、ヴァン。ご心配なく。データが消失してしまったのは惜しいことではありますが、これはそれにも勝るいい研究材料ですよ! これを渡してしまうのは、本当に惜しい……!」



冷静な声とは打って変わって、興奮した声が響く。
片や、ローレライ教団神託の盾(オラクル)騎士団、主席総長ヴァン・グランツ。片や、同じく神託の盾騎士団第二師団師団長ディスト。

二人はひたすら子供を無視して話し続けている。子供はただそれを見ている。



「刷り込みをしないんですか」


「必要ない。余計な知恵が付いてしまっては困るからな。それに無知な子供ほど御しやすいものもあるまいて」


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