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□世界で一番君が好き
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ルーク・フォン・ファブレ、ファブレ公爵家令嬢で、前皇帝にかなり近い姪っ子。現在は世界を救うため仲間とともに放浪中。


「んなことはどうでもいい」


ユーリ・ローウェルはつらつらとルークの経歴を脳内に並べ立てて、途中で放棄した。今は経歴はどうでもいい。重要なのは彼女が一体誰を好きなのかということだ。少なくとも己は嫌われてはいない、最初の頃に比べてよく話しかけてくれるようになったし、あの殺人的なほどに可愛い笑顔もかなりの回数見てきた。(耐性もできた!)
が、それでも敵は多い。パーティー内のすべての仲間がルークを構い倒すので、ユーリの入り込む余地がなかなかないのが現状である。とかく、大きな壁と言えるのが、ルーク付きの騎士でシオンという女性だった。年齢は聞いたことがないが、ルークによるとかなり上らしい。人魔戦争が終結する少し前からルークの騎士をしているので、少なく見積もってもユーリより年上であることは確かだ。


「って、あいつの年齢もどうでもいい! ……いや、少しは関係あるか」


年齢差は如何ともし難い問題だ。その差の分だけ己は何か足りない気がするから。
ユーリは少しだけ苛ついて眉根を寄せた。



打倒星喰みに向けて行動する最中、一行は休息のためにオルニオンに立ち寄っていた。
忙しく動いているはずのフレンと行き会い、労いの言葉をかけられたのはつい先刻のことだ。彼は彼なりにユーリたちを気遣いいつもサポートしてくれている。みな、口には出さないが感謝している。


「ね、シオン、ユーリがどこに行ったか知ってる?」

「さて、私には分かりかねます」

「何だか冷たい言い方。シオンはユーリが嫌い?」

「ええ、とても。ですが、だからといって距離を置いても意味はありませんから。それなりのお付き合いはしています」

「……シオンってすごいよね」

「は?」

「私だったら絶対気後れしちゃうよ」


ルークは目を輝かせてシオンを見つめた。羨望に満ちたその目をまともに見てしまい、シオンは思わずため息をついた。
正直なのは悪いことではないが、こうまで無防備なのは如何なものか。まあ、だからこそ庇護欲を掻き立てるのかもしれないが。
例えば、心底嫌いなユーリ・ローウェル。
おそらく彼が一番ルークに近い場所にいる。そして、ルークもまたユーリに惹かれている。だから、シオンはやはりユーリが一番嫌いだ。
幼少のみぎりよりお世話してきた主人がどこの馬の骨とも知れない男に心ごと攫われようしている。許し難いことだ。


「あ、ユーリ!」


街の外に出ていたらしいユーリが帰ってきたのを見て、ルークは極上の笑みを浮かべた。それはたった一人にしか向けられない、最も美しく可愛らしい微笑み。
ユーリの元へと駆けていくルークの後ろ姿をシオンは複雑な思いで見つめて、次いで、ユーリを睨んでやった。



息を切らしたルークが目の前に突然現れてユーリは動揺した。おまけに探していたんだと微笑みかけられて、さらに胸は高鳴る。すでに彼女が好きなんだと自覚のあるユーリにしてみれば、こうも無防備に微笑まれるとどうしていいか分からなくなる。


「ユーリ? 気分でも悪いのか?」

「いや、」

「本当に? 何だか顔が赤いよ」


――いったい誰のせいでこんなことになってると思ってるんだろうか、この娘は!

叫びたい衝動にかられたが、何とか抑えた。八つ当たりだと分かっているからだ。


「大丈夫だ。それよりルーク――お前さ」

「なあに?」

「…………やっぱいい」

「途中で止めないで。言いたいことがあるなら聞くよ?」


ああ、やはり分かってない。全然分かってない!
ユーリは盛大にため息をつくとルークを抱きしめた。ルークはユーリの腕の中で目を白黒させて、最後に真っ赤になって、今度こそ言葉を無くしたようだった。


「ルーク、俺は――」


言いかけて、ユーリはぴたりと固まった。何故なら先ほどから無視し続けていたシオンの敵意が殺気に変わったのを感じ取ったからだ。


「ユーリ・ローウェル、その汚い手をルーク様から離せ」

「(良いところを邪魔しやがって……!)」

「何か言いたそうだな」

「いや、何も?」

「ほう? その割にはずいぶん不機嫌そうだが?」

「うるせえよ。あんたにゃ関係ないね」

「小僧、口の聞き方には気をつけることだ。でないと痛い目を見るのはお前の方だぞ?」

「へえ、やれるもんならやってみろよ」


お互いに苛々が最高潮に達して、武器を抜いた。
ルークを安全圏内まで移動させると、とうとうユーリとシオンは打ち合いを始めてしまい、その剣戟の激しさにルークは真っ青になってしまった。


「ど、どうしよう!」

「しばらく放っておけば気が済みますよ、ルーク様」

「フレン! でも、」

「ああ、そのうち飽きる。それまで放っておけ」

「兄上まで!」


フレンとアッシュに言われても納得できないルークは意を決すると、ユーリとシオンの間に滑り込んで目をぎゅっと閉じた。


「何馬鹿やってんだ!」

「全くです!」


すんでで武器を逸らせるとユーリとシオンはルークを怒鳴りつけた。
ルークは目を開いてきょとんとしたが、二人がいつものように己に世話を焼き始めたのを見て、ふにゃりと笑った。


「…………」

「…………」


ユーリとシオンは二人してため息をついた。
まずはこの無防備過ぎるところをどうにかしなければ、ユーリたちの敵は増えるばかりだ。
この間、ダングレストに寄った時など、ハリーに花束を貰っていたし、ノードポリカに行った時はナッツにたんとお菓子を貰っていた。(こちらはかなり父性愛に近いのでまだ救いがある)それにザーフィアスに寄った時はルブランやアデコール、ボッコスらから役に立ちそうな消耗品を貰っていた。


「ルーク」

「なあに?」

「……やっぱいい、何でもない」


ルークは首を傾げてユーリを見上げた。
ユーリとシオンはやはり二人揃って盛大なため息をついたのだった。そうして、またルークを挟んで睨み合いを始めると、やはり最終的に剣が出てきて打ち合いになったが、今度はフレンたちに安全圏内まで連れ戻されてルークは二人にこんこんと説教を食らった。その先でユーリとシオンが鬼神のごとく打ち合っている様は何とも奇妙な光景だった。



フレンとアッシュが言った通り、二人はしばらく打ち合って気が済んだらしかった。が、傍目には完全にユーリが負けていたため、彼は傷だらけだったが。(ユーリ自身は負けたとは思っていない)


「もう、ユーリは無茶するんだから!」

「だから悪かったってさっきから言ってるだろ」


宿屋に入ってルークはユーリの手当てにかかりきりになっていた。軽い傷だけで数限りなくあるためエステルの治癒術の方が早いのだが、そこはそれ、空気を読むようになったエステルはそのことに口出しをしなかった。


「にしても掠り傷だけこんなにあるなんて、シオンって余程手加減したんだね」

「は? 手加減?」

「うん、シオンが本気出したらもっとすごいことになってると思うよ」

「(あれで手加減とか有り得ねえ! どんだけ強いんだよ、あいつ)」

「ユーリのこと嫌いだってシオンは言ってたけど、気に入ってるんじゃないかなあ」

「……いや、それはないな。あいつが嫌いってはっきり言ったなら本当に嫌いなんだろ」

「そうかなあ?」


ルークは納得していなかったが、ユーリは何となくそうだろうな、とは思っていたので、別に驚くことではない。むしろ、ルークのためとはいえ、嫌いな人間とよく連んできたなと感心する。己だったら絶対に投げている。必要に迫られようが何だろうが、そもそも合わないのだ。どうしようもない。


(まあ、フレンと今でもそれなりの付き合いしてるんだから、どうしようもないってことはないか)


ユーリは微かに笑った。


「何か可笑しなこと、私言った?」

「いいや? ただ、ルークは相変わらず可愛いなあと思ってただけだ」

「棒読みだけど」

「ははは、気にすんな」

「むう……」


ふてくされるルークはかなり可愛かった。ユーリは心中で、今度は二人きりの時に見たいなとおもったが、当分は二人きりというのは無理だということもよく理解していた。実際、この部屋は一人部屋ではない。隣のベッドにはレイヴンが面白そうにこちらを見守っている。手当てされるユーリを見て、何が面白いのかまったく理解できないが。


「ま、気長に頑張りますか」


ユーリはそう言ってルークの額に口付けた。
顔を真っ赤にしたルークにありがとな、と言って頭を撫でてやった。











(おい、おっさん、その気味の悪い笑い、やめてくれ)
(ひどいね〜青年。俺様の癒しタイムを邪魔しないでくれる?)
(は、癒し?)
(一生懸命なルークちゃん、可愛いよねえ)
(…………)

敵は多いけれど、それでも
世界で一番君が好き!










――――――――――
終わり。
嫉妬する二十一歳とおそらくは同族嫌悪な年齢不詳。

『君がいたから』の水斗さんに捧げる相互記念リクエスト作品です。
何だかちゃんとvs物になっていないような気がしますが、いかがでございましょうか……。
ちなみに返品不可の方向で、一つ。
今回のお話はとにかくルークを可愛く!
と思いながら書きました。
二人ともルークにメロメロだといい、笑。


追記。
一度書き上げたのですが、ラストが納得できず、ラストのみ書き直しています。
水斗さん、お待たせしてごめんなさい、汗。

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