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□恋なんてものはその辺に落ちているものだ
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恋なんて、しない。恋なんてしたってどうせ最後には別れてしまうんだ。


『もうつき合いきれないんだ――』


この間、別れたばかりの男にはそんなことを言われた、気がする。いろいろとショックで、呆然とするしかなかった。
別に遊びで付き合うわけじゃない。いつも本気で好きになって全力で恋をしてたつもり。だけど長続きしない。
自分の気持ちが重いんだって思ったことはなかった。だって、好きなヒトに尽くしたいとか、愛されたいとか、普通の感情でしょう?





ルーク・ファブレは御年十七歳にして、男遊びの激しい軽い女として有名になってしまった。


「何でそうなっちゃうかな」

「とっかえひっかえしてたから、そのせいだろーねえ」

「んなつもりねーもん」

「あーまあ、ルークが純粋なのは知ってるけどさ」

「うー……」


ここはテイルズ学園高等部の二年A組の教室。窓際の気持ちのいい陽のあたる席。ルークは友人のアニス・タトリンと昼食を食べていた。
アニスはため息をついた。確かに端から見れば男遊びが激しく見えるが、ルークはいつだって純粋に恋愛をしている。だから些細なことで悩むし、落ち込みもする。本当に遊んでるなら男一人に一喜一憂などしないだろう。

(ほんっと、世の男たちは分かってないなあ……)

ルークの良さを本当に理解する者だけが彼女の心を手に入れることができる。その資格があるのだ。


「とりあえずさ、しばらくお休みしたら? 焦っても運命のヒト、見つからないと思うよ。それに運命なんて目に見えるわけじゃないんだしさ」

「だからお付き合いして確かめてるんじゃん。可能性があるなら、俺、試してみたいよ」

「だからそれ! 軽々しく付き合っちゃうから男遊びが激しいなんて思われちゃう一因なんだってば。もっと慎重に行かなくちゃ。別にさ、付き合うだけが道じゃないデショ。たまにはお友達から始めてみるとかしてみたらいいのに。ルークってそういうの絶対ないよね」

「そ、う、かな」


ルークはしょぼくれて顔を俯けた。
確かにそうかもしれない。この人だって思ったら一直線で、押して押して押しまくって、絶対に引かない。お友達から、なんて都合のいい詭弁だって思ってて、たぶん、そうしてる世の女の子たちを己は馬鹿にしてるんだ。


「ルークは急ぎ過ぎ。急がば回れって言葉知らないわけじゃないよね」

「先手必勝……」

「もお! せっかくアニスちゃんが忠告してあげてるのに!
聞きたくないっていうならそれでもいいけど、後悔して最後に泣くのは自分だってこと、忘れちゃ駄目だよ!」


アニスの言いたいことは理解できる。けど、性分だからどうにもならない。ルークは結局お弁当の中身を半分以上残したまま昼食を終えた。





放課後、とんでもない腹痛にルークは動けなくなっていた。理由は分かってる。月一でやってくるアレだ。いつもは軽いのに今回は違うみたいだ。助けを求めようにも今日に限ってアニスはバイトで先に帰ってるし。散々である。
ルークは昇降口でじりじり痛みに耐えながら、しゃがみこんだ。


「うう、兆候があったからそろそろだろーなーって思ってたけど、これはかなりキツイなあ……」


だいたい午後からずっと変だった。重いし、だるいし、何だかぼんやりして。


「どうかしたのか?」


声にびっくりして振り返ったら、最近赴任してきたばかりの保険医ユーリ・ローウェルがそこにいた。生徒からはそこそこ人気の高い先生だというくらいで、ルーク自身は彼のことをあまり知らない。


「なん、でもない、です」

「何でもないなら、んな青い顔してねえだろ。とりあえず保健室で休んでけよ」

「でも、今日は帰らないと……」

「オイ、お前、自分の身体、もっと大切にしろよ。無理して何かあったらどうすんだ」

「だ、だって、」

「だってもへったくれもあるか!」


ユーリは本気で怒っているらしくルークを睨むと、動かないルークの身体を軽々と抱き上げて歩き出した。


「ちょ、ちょっと、歩けるから!」

「歩けるなら真っ先に保健室に来るはずだよな?」

「う、うぅ……」


ルークは顔を真っ赤に染めて、お腹の痛みと情けないのと悔しいのと気持ちがないまぜになって、とうとう泣き出してしまった。が、ユーリは無視した。まるで自業自得だとでも言うように。
保健室に入ると彼はルークをベッドに座らせて、薬のある棚から痛み止めを出すと、ガラスコップに水を入れ、ベッドに備え付けてある食事用のテーブルに置いた。


「腹は空いてるか?」

「分かん、ない……」

「そりゃそうだ。悪い、野暮な質問だったな。んじゃ、これ、腹に入れとけ。空きっ腹に薬は胃が荒れるもとだからな」

「あんま、食べたく、ない」

「駄目だ、食え」


ルークは差し出されたマフィンをしぶしぶ受け取るとそれを口にした。ほんのりした甘味が一瞬痛みを忘れさせてくれる。ルークは大の甘いもの好きなのだ。渡されたマフィン一つ平らげたルークは少しだけ笑った。

(あ、笑った)

ユーリはそこでやっと寄せていた眉根を戻して、優しく笑んだ。相変わらず顔色は悪いが、先ほどより幾分かマシに見える。が、油断はできない。


「ほれ、次は薬」

「苦いからやだ」

「飲めよ。でないと痛いまんまだぞ」

「やだ」

「ほう……? んじゃ、無理矢理飲ませるぞ」


ユーリは痛み止めの錠剤と水を自らの口に放り込むとルークに口づけた。舌を上手く使って錠剤をルークの喉に押し込むと無理矢理飲み下させた。飲みきれなかった水が口端を伝ったが、彼がそれを軽く舐めとったから制服を濡らすことはなかった。


「よし、飲んだな。しばらく休んどけ」


ルークは呆然としたままユーリの指示に従った。今、何が起こったのか、理解できていないのだろう。

(いま、なんか、すごいこと、された、きが……)

心の中は混乱を極め、薬が効いて眠ってしまうまでずっとルークは百面相をしていた。










(何か、すっげえことやっちまったぞ、俺。おっかしいな、いつもならこんなの何でもないはずなんだけどな)





こんな始まりだっていいんじゃない?
恋なんてものはその辺に落ちているものだ










――――――――――
たける様のリクエスト作品が上がりました。

あれ? 強気なユーリってこんなのでいいのか……?
ルークもたまたま押しが弱くなってるだけのよーな……?
そもそも始まったばかり……?
あれ……?

ええと、すみません、テンパりました。
返品は不可の方向で一つ、お願いします。
何だか、ほんとに申し訳ありません……!土下座

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