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□踏み出す一歩の先に君がいた
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校門までは何とか来られた。けれど、そこから進めない。このまま立ち尽くしていたら不審がられると頭では理解しているのに、踏み出せない。
とても怖い。人の中に入って行くのは、とても怖い。おまけに嫌ものが背筋を撫でていった。


「ぁ、……ぅう……」


息が苦しい。目の前がぐらぐら揺れる。やっぱり帰ろうか。いや帰れない。帰ったら心配される。あの心優しい夫婦に迷惑はかけられない。


「……っ……ぅ」

「おっと、大丈夫か?」

いよいよ肺が痛くなるくらい苦しくなって、ルークは後ろに倒れそうになったが、昨日出会った青年が支えてくれた。ルークはびっくりしたように目を見開いて青年を見る。


「あ、」

「顔色悪いな。保健室行くか」

「だ、だいじょうぶだから……!」

「いいから、行くぞ」


青年はそのままルークの手を引いて歩き出す。何を言っても無駄だと分かるとルークは沈黙した。
その間も嫌なものは背筋を撫で続けている。季節は夏のはずなのに、寒さが身体を襲う。


『遊びましょ』


耳元で囁くそれにルークは声にならない悲鳴を上げた。


「大丈夫だ、恐れるな」


暗い暗い闇の中で聞こえた優しい声。ルークは今度こそ気を失った。
青年はルークをすんでで抱き留めると不意に何もいないはずの場所を睨みつけ呟くように言った。


「ちょっかいを出すな。コレは俺のものだからな」


気配はすぐに消えた。
新参をからかっただけなのだろうが、青年は苛立った。最近、ずっとざわざわと胸が騒いでいた。だから、何かが起こるのか、来るのかと少し楽しみだった。そうしたら案の定、己に名を押し付けた挙げ句いつの間にか死んでいたあの女の匂いのする子供がやってきたではないか!
青年はルークを抱き上げると真っ直ぐ保健室に向かった。そこにいるいけ好かない男のことを考えなければサボるのに恰好の穴場と言えるのだが。
青年が保健室の扉を開けると蜜色の髪の毛を揺らして青年を見て、次いで青年が抱いているルークを見た。


「おや、とうとう君も身を固める気になりましたか」

「違う。激しく誤解を招くような言い回しはやめろ」

「これは失礼を」


おどけて言う男を睨むと青年は言った。


「急病人だ」

「そのようですね。ベッドに寝かせてください。身体を診ましょう」

「いらない。理由は分かってる」

「さっそく洗礼を受けたのですね」

「ああ。睨んでやったら一目散に逃げやがったが」


青年はルークをベッドに寝かしつけると一つ息を吐いた。
その様子を男――ジェイド・カーティスは興味深げに見つめていた。


「あなたに睨まれればここでは生きていけませんからね」

「別にそんなつもりはないんだけどな」

「そうでしょうね。でなければ私は今生きていませんし」

「嘘付くな、狐。殺したって死なねえよ、アンタは」

「お褒めにあずかりありがとうございます」

「褒めてねえよ」


青年は少し疲れたようにため息を吐いた。と同時に緩く風が吹いて、彼は消えた。代わりにルークが眠っているベッドの足元に青みを身体全体に帯び、左目に裂傷のある子犬が現れた。子犬は近くに置いてある椅子を台にしてベッドに飛び乗るとルークの横で身体を丸くした。


「ユーリ、眠るのは程々にしてください。後で文句を言われても知りませんよ」

『この姿の時はラピードって呼べと言ってるだろ』

「失礼を、ラピード――ずいぶんとチカラも落ちているようですし。無理は禁物ですよ」

『分かってる』


本当に分かっているのか、甚だ疑問だが、本人がそう言っている以上何も言えない。ジェイドは書類を提出すべく職員室に向かった。何かあっても彼があの子供を守るだろうことは容易に予想がついたからだ。


「相変わらず、彼女の匂いは甘い。甘過ぎて食指が動きそうになるのがたまにキズですねえ……」


ジェイドは苦笑した。そんなことをするつもりはないが、彼がずいぶん入れ込んでいるように見えたので、軽くちょっかいをかけるくらいは許してもらえるだろうか。
いや、そんなことをすれば今度こそ殺されるかもしれない。ジェイドはまた苦笑した。










(にしてもアイツより甘い匂いだ。コレ、ホントに男か?)





子犬は思考が溶けていくのを感じながら目を閉じた。
踏み出す一歩の先に君がいた










――――――――――
あれ、ジェイドが自重してない。
てか、ユーリも大概自重してないような。
夏目パロもどき第二弾。
ああ、言いたいことの半分も書けてない……!

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