abyss3
□俺は道具でも玩具でもない
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ルークは叫んだ。その叫びを正しく理解した者はどれほどいたのだろうか。
己の価値を正しく理解できていないルークでも、許せることと許せないことがある。
何が正しいとか正しくないとか、そんなことはどうだっていい。この世の中は理不尽で残酷で、いつだって優しくない。主観による『正しさ』だけがあって、主観による『救い』が世界を動かしているんだから。
「人間の理想がどれほどに高くとも、俺たちにはいつだって『救い』なんかないじゃないか!」
人間とレプリカにどれほどの違いがあるかなど、ルークは知らない。いや、違いが本当にあるのかさえ疑わしい。
「あえて言うなら育った場所の違いでしょうね――温かな子宮か冷たい試験管か。ですが肉体も内包する魂も、すべて人間と同じ」
だから何だと言うのか。ルークはジェイドのポーカーフェイスを恨めしく思った。
例え彼が直接関わらなくても、彼の生み出した理論がルークを作ったのに。どうして冷静でいられるのか。ルークには理解できなかった。
「世界は不公平だ」
「世界は優しくありません」
「甘えることすら許されない」
「だからこそ醜く美しいのかもしれませんね」
残酷な世界は美しいのか。ジェイドの言葉はいつも難解だ。
「お前、最低だ」
「ええ、自覚がありますのでご心配なく」
「はっ! もっと最低だ!」
吐き捨てるように言ってルークはジェイド殴ろうとしたが、難なく受け止められてしまった。
「――死んでください、ルーク」
終わりだ。全部、終わりだ。ジェイドは最初から最後まで最低だ。
消えゆく身体を優しく抱きしめられて、ルークは最初で最後の弱音をジェイドに吐いた。
――しにたくない。
(俺は何だったのか?)
(価値はあったのか?)
俺は道具でも玩具でもない
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改題前の話。
こっちのがコンパクトで分かり易いことが判明して少し自己嫌悪、遠い目。