戴き物のお部屋

□DIRTY
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ゆらゆらゆら・・・淡い光を反射して揺れる液体。

ユーリはアルコールの入ったグラスを片手に、店内の ある一点をじっと見つめていた。それは威嚇とも挑発 とも取れる光を宿し、一瞬にして不穏な空気が流れ る。だが相手は意に介した様子もない。

何故なら俺は従業員で、向こうは貴重なお客様だから だ。

だが、俺にとってそんな事はどうでもいいことだっ た。ツカツカツカと踵の音をわざと大きく響かせるよ うに、客の居るテーブルへ向かう。

「お客様、申し訳ございませんが指名が入りましたの で」

そう言って客の隣に座る男の腕を掴む。本当は指名な ど入っていない。ただ、自分が我慢できなかっただけだ。

男の腕を引いて更衣室へ向かう。戸惑いの表情を浮か べながらも、男は抵抗することはなく大人しく従っ た。

誰も居ない更衣室に入ると、狭い室内に酒の匂いが充 満する。薄暗い照明とアルコール臭、それだけで酔っ てしまいそうだ。

「ルーク、大丈夫か?」

「気持ち・・・悪い。しかもあのクソオヤジ、べたべた 触りやがって。ここはキャバクラじゃなくてホストク ラブだっつーの」

元々酒が弱く、ワイン2杯で視界がふらついてしまうと いうのに、無理矢理に飲まされ続け、真っ直ぐ立つ事 さえままならない。

おまけに体を触ろうとするものだから、余りの嫌悪に 吐き気が止まらない。

「ユーリ・・・気持ち悪りぃよ、体」

「だから触らせんなって言っただろ」

「ごめん、なさい」

頭を垂れてスーツの裾を強く握る拳が僅かに震えてい た。今にも泣き出しそうな様子に苛立ちを抑え切れな い。

俺のモノに触ったあの男を刺し殺してやりたい、そう 思った。

「ルーク、おいで」

両腕を拡げると、ルークは素直に俺の腕の中に収まっ た。しがみついた、と言った方が正しいかもしれな い。

そしていつものように言う。

「ユーリ、・・・綺麗にして」

ほんのり染まった頬と薄っすら涙の浮かぶ瞳は俺の理 性を揺さ振る。そこをなんとか抑え込み、細い首筋へ 触れた。

耳の裏に唇を寄せ舌で一舐めすると、ルークの体がピ クリと反応を示す。

「あ、・・・っ」

耳の裏から耳たぶ、中まで執拗に舐め回すとルークが 小さく声をあげた。

「ルーク、黙って・・・」

「・・・ん」

漏れる声を懸命に抑えようと目を瞑る姿に、淫らな欲 が込み上げる。だけどそれを隅に遠ざけて行為に集中 した。

耳の次は首、そして鎖骨、胸と男が触れた箇所に重ね るように舌を這わせた。汚れを拭い去るように何度も 何度も唾液を塗りたくる。己のものだと印を刻みなが ら。

「ユー・・・、も、いい・・・っ」

「駄目、まだ汚れてるだろ」

「んっ、・・・は・・・っ」

俺の舌に感じて熱い吐息が唇を震わす。今度はその唇 に指先で触れると、

「そこは触られてなっ・・・///」

「ああ、俺がしたいだけ」

そう言ってルークの唇を舐め、己のそれをゆっくり重 ねる。

「ユー、・・・ふ、・・・んっ」

奥に逃げようと丸まる舌を突いて吸い上げれば、躊躇 いがちに応える可愛い舌先。馴れない口づけに懸命に 応じる姿は切なく・・・これ以上は堪えられそうもな い。

「なぁ、辞めろよ」

唐突に、そう言った。

「辞めるって・・・?」

「この店」

翡翠が困惑に揺れる。

「なんで。やだ・・・だって、ユーリと一緒に居られな くなるなんて・・・嫌だ」

涙こそ流しはしないが、表情は悲しい泣き顔。そんな 顔をされて、男がどんな風に思うのかなんてまるで 解ってない。

「ったく、無防備も此処までくると罪だな。そういう顔 するから、・・・言ってんのに」

すると涙を堪えて無理に笑顔を作った。それでも眉は 下がり、唇はぷるぷる震えている。堪らない・・・余 りの可愛さに溜息すら毀れる。

そんなこちらの心情も知らずに、

「な、泣かないから。もうこんな顔しねぇから、だから 辞めたく・・・ない」

やっぱり全く解っていない。

「根本的に違ぇよ。俺から離れろつってんじゃなくて、 俺だけのものになれつってんの」

「それって・・・」

理解したのかしていないのか、大きく見開かれた瞳は ただ驚きに瞬きを繰り返すばかり。

ストレートにぶつけてやらないと伝わらないのか。鈍 い奴、と苦笑混じりに

「俺のお嫁さんになれってこと」

そう言ってやると漸く意味を理解したようだ。みるみ る顔が真っ赤に染まっていく。

「もう触れさせんなって。俺以外の奴と話すなよ。俺以 外見るな。言ってみろよ、ルークは誰のものか」

「あ、あの・・・ユ、ユーリ・・・だけ、の・・・」

もにょもにょと語尾が小さく窄んでいく。言いながら 己の発言に羞恥が込み上げてきたのか、恥ずかしさに 目を伏せ眉を寄せる。

そんな無意識の誘惑に幾度目かの溜息を零し、側に寄 り添い顎に触れた。僅かに上を向かせれば、この先を 期待するかのように艶やかに濡れた唇がキュッと結ば れる。

「そんな可愛い事言うこの唇も・・・」

二度目のキスを落とす。

そう、この唇も俺だけのもの・・・





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